2016-01-01から1年間の記事一覧

東名の大井松田から車でさらに足を伸ばして半時間。夜の十時、南足柄の見晴らし台。 年初に手に入れた双眼鏡(18x70)を一度遠征地で空に向けてみたいとずっと思ってきたけど、思うように時間が取れないまま年末になってしまった。ここに来るのは一年ぶりだ。…

ごく簡単に。 今日は妻のお母さんの最後の出勤だった。父を亡くした十八才から七十二才まで五十四年間(自分の人生はまだその年数にも達していない)。 自分の足で踏んだミシンで服を届け、弁当を売り、病院の患者の食事を作って、世の中のための仕事を果たし…

北極海。シャチの群れが獲物を追う場面をテレビで見た次の日の夜。 廊下のすみに、水を満たした大小のペットボトルが楕円状に並べられていた。 大人のクジラが子どもを内に囲んで守っているのだ。

先月のある月曜日のこと。 朝の八時頃、ソファーで放送大学を見ながら朝食を食べていると、息子を見送りに行っていた妻が息を切らせて帰ってきて、「上履き忘れたから、届けてくる」と言うが早いか、またすぐに飛び出していった。 窓の外を見ると雨が降って…

妻から「最近のあなたのオナラは打楽器じゃなくて弦楽器だ」と言われた。 和太鼓と同じで、張りがなくなったら摩擦で空気を震わせるしかないからなあ。

今日は日がな泣いたように過ごした。 電車の鉄輪から伝わる線路の軋みも、山の端に煙る霧雨も、路地裏の立ち飲み屋で酒盛りをしている人たちの顔も悲しかった。 鳩尾の辺りに不快に渦巻いていたものをここにさらけ出しても生々しいだけだ。ただ外の世界に対…

『八月の狂詩曲』 今日、和歌山の実家では迎え火を焚いたそうだ。仏さんが家に帰る道を見失わないための目印だと聞いて、他の家でも火を焚いたらどの家か分からなくなるではないか、と息子。加えて「仏野郎は何処から来るんだ」などとおちょけるから怒られて…

昨夜半に一人帰宅。帰路は往路に増して熱暑と悪臭の難行であった。 よく寝て快復したものの、今日はゆっくり映画でも見て過ごす。こんな一人のときは家族で見られない戦争モノから片づける。親のいなくなった邸宅で缶詰を貪っていた『太陽の帝国』の少年を、…

昼前に妻と息子が家を出てかた一時間もしないうちに好からぬ欲望が頭をもたげた。夕方までにやるべき仕事はたくさん残っている。これまでずっとそれを押し殺すために使ってきた理由も変わらずそこにある。けれども頭の中の意志の束が劣悪な力に無理に掴まれ…

四方に夏らしい雲が沸いて暑い一日。散歩から帰るとポストに親戚からの暑中見舞いが届いていた。 旅行中は浮かれながらも緊張していた気持ちがほどけ、諸々の感情が合わさって一気に涙が流れた。

あまり確かな記憶じゃないのだけど、まだ小学生になりたてのときに東京の百貨店でおもちゃを買ってもらったことがあった。クリスマスか誕生日に近い冬の季節、神奈川の田舎から電車に一時間以上ゆられて上京し、今よりも大人たちがずっと大きな声を上げて話…

さらに18x70の話。 5月の末にあった火星の大接近の際にもこの双眼鏡を使ってみた。この頃、火星はさそり座の頭の近くにあって、すぐそばの土星や、逆方向に大円を描いて西の空高くに引っかかっている木星とともに、にぎやかな黄道の眺めを成していた。それぞ…

ニコン18x70の話の続き。 これより前に主力として使っていた双眼鏡はニコン16x56だった。手持ちで使える双眼鏡の倍率は10倍までという通説に逆らって16倍を手に入れたのは、当時宵の空に見えていた金星の満ち欠けをなるべく大きく見てみたいという欲求に加え…

ネットにもあまりはっきりと断定した記述はないようなのだけど、ニコンの18x70という双眼鏡、無限遠にピントを合わせて三脚に固定すれば土星の輪はきちんと見えます。「面積をもった楕円形」でもなく、ガリレオが3.8cmの望遠鏡で見た「耳たぶ」状にもでもな…

妻が着ていた寝巻きにほつれを見つけた。もう買い替えれば?でもまだ着れるから、などと台所の中で話していると、テーブルで絵を描いていた息子がのぞき込んできた。 「お金がなかったらオレの使ってもいいよ」 だって。四月から貰い始めたお小遣いはまだ財…

土曜日。梅雨前の空気が一時澄んで、朝から箱根の山がよく見える。午前中から小学校の授業参観があった。父兄が集まると子どもたちがグループごとに分かれて、学校の各所に案内し、その場所の説明をしてくれる。「ここは屋上です。大きな字で小学校の名前が…

初めそれは笑い声のように聞こえた。僕が仕事部屋に消え、再会のあとの一騒ぎを終えた甥と息子がテレビを見ている隙に、洗面所にひきこもった姉妹が秘密を分け合い忍び笑いをしているのだと思った。けれども声は似ていても、壁を通して聞こえてくるのは妹の…

最後の通院を終えた妻を駅まで迎えにいった。スマホから面を上げたときの顔はクールだったけど、疲れたような瞼の様子からその前の時間のことが少しわかった。午前11時、外は篠つく春の雨。小っ恥ずかしくなるほどお誂え向きの情景だからこんなことを書いて…

青空文庫で『或阿呆の一生』を眺めているときにのぞき込んできた妻が「この前読んでた『阿Q正伝』の阿Qとどっちがアホなん?」と聞いてくる。どうも話が合わないと思っていたら、彼女は魯迅の『阿Q正伝』とか、ダウンタウンのアホアホマンとかそういうものを…

正月から発起してRussellの"History of Western Philosophy"を読んでいる。行き帰りの電車や寝床の中でうたた寝を友にちびちび。そこから興味が派生して二月頃に一時中断、世界史の教科書を引っぱってきて二周した。延々つづくドンパチや地図の塗り替えを古…

花は梅と桜しか知らないから、外に出ると上ばかり見上げてしまう。週の頭から少し咲き始めて、今は葉の緑と薄いピンクが半々の中途半端な色合。開花と同時に空気の色まで染まってくるように感じられるから不思議だ。つられて体の他のものも目を醒ますようで…

この一週間は、東京で開かれたチェスの大会に出場するために甥親子が泊まりに来たり、お別れも兼ねた幼稚園のサッカー大会が平塚であったりでそれなりにバタバタ。卒園で情緒的に高揚したムードが持続して、いつになく感傷的に過ぎた。まだ気温は思ったほど…

「まあ、シャイなパパが多いからねぇ」 レストランでちょっとしたお祝いの食事をしたあとも、何だかふわふわしていたら妻にそう言われた。 「式辞で園長先生も言ってたじゃん。お母さんもお父さんも子どもと一緒に入園してたって。だから今日うちらも卒園し…

卒園式は、本番の式のあとに一時間の休憩があり、そのあとに茶話会という流れ。けれど子ども達や先生、お母さんたちが秘蔵の出し物を披露したりする茶話会は、会場のスペースの都合で原則父親たちは参加禁止。茶話会に出られない父親たちはどうするんだろう…

誕生日辺りからつまらないことが起こって、騒動のなか心に鬱積してくるものがあり割と苦しかったんだけど、さっき妻とゆっくり話して、ようやくわだかまりが収まっていく気配。キーワードはやっぱり「親離れ」ということなのかな。否が応にも人間性形成の鋳…

映画"A Few Good Men"を見ていたら、トム・クルーズが新聞屋の店主と絡むシーンで"it ain't over til the fat lady sings"という台詞が出てきた。これは確かNew Kids On The Blockの大昔のヒット曲"Hangin' Tough"にも使われていたフレーズで、直訳すれば「…

録画してあった『あぶない刑事(1987年)』を見た。三十年前の、まだみなとみらいが呼び物になる前の横浜がフィルムのそこかしこから浮かび上がってくる貴重な映画だった。人質交換の現場になった横浜駅西口は路面の舗装が粗くてまだ土臭さが残っていた。埠頭…

NHKの『サイエンスZERO』。今回は、近年とみに激しさを増しているサイバー攻撃について。インターネットに繋がった車が乗っ取られたり、スマホから個人情報が盗まれたり、発電所や核施設が狙われたり。見終わって「怖いね〜」と頷き合っていたうちらの反応が…

昼ご飯を食べながらやっていた、行ったことのある都道府県を挙げていくというゲームで、途中からルール変更して電車で通過したことのある県でもいいということになった直後、「岐阜!」って答えた妻のドヤ顔が可愛すぎた。

日が落ちて冷たくなった歩道の上を走った。先頭が僕、真ん中が息子、一番後ろに妻。週末にある親子マラソンで、息子と一緒に走る予定の僕が足を引っ張らないように練習しておく、という名目。あっちこっちに興味が飛んでせわしなくリズムを変える足音に耳を…