映画"A Few Good Men"を見ていたら、トム・クルーズが新聞屋の店主と絡むシーンで"it ain't over til the fat lady sings"という台詞が出てきた。これは確かNew Kids On The Blockの大昔のヒット曲"Hangin' Tough"にも使われていたフレーズで、直訳すれば「太ったおばちゃんが歌い始めるまでは分からない」という意味。なぜ太ったおばちゃんが歌い始めるまで分からないのかというと、実はこの"fat lady"というのは、元々ワーグナーの『ニーベルングの指輪』に出てくるブリュンヒルデという戦闘少女のことで、この少女はオペラのクライマックス近くに登場すると延々20分間にも及ぶアリアを歌い上げてこの世の終わりを告げるだか嘆くだかして劇的なはずなのだけど、実際の舞台上の風貌は往年のソプラノの例に漏れず極度に肥満していて、しかも微妙に老けていた、という故事からきているらしい。今でいうとCMでマツコ・デラックスにダメ出しされる感覚に近いのかな?
映画の話でいうと、仕事のBGMに流していたEmerson, Lake & Palmerのベストアルバムにロック風にアレンジされた"Jerusalem"という曲があって、同じ曲が挿入歌として使われていた『炎のランナー』という映画を思い出した。そして映画の原題になっている"Chariot of fire"という言葉が、ウィリアム・ブレイクの手になる同曲の詩句に含まれていることを知る。国教会の信徒が荒廃していく国土を前に古のエルサレムへ馳せる思いがはっきりと分かるわけではないけれど、イギリス人に限らず自分が生を受けたその土地に祖先が家族を連れてやってきた陸の道や海の道を想うことが、己の来し方に叙事詩を与え、身の処し方を諭し、未来を意味づけ、時には民族的な運動に束ねられることもあることを示すロマンチックな詩ではあると思う。