Diary

近所の食品店で、今日をもって仕事をやめ九州の地元に帰られる店員さんとお別れをした。四年前、大学に進学した娘さんとともに横浜に越してきてから昼間はずっとそこで働いていた人で、アルバイトながら店内の展示や企画に率先して活躍されていた。毎年注文…

いつまでも 判らぬが良し 詰将棋高飛車に説く君の手の 肩に覚えつ

夕方に突然節々の痛みが増し、体温計を見てから不安になった。39.4℃。いつもの頭痛、いつもの悪寒。多分ただのインフルエンザだ。けれども、この病気に罹ると毎度1%ほどの死の恐怖を感じる。重い病気の人には怒られるかもしれないと思いながら、本当にこのま…

11月最後の日曜日。今年もこの日をもって会計年度の終わり。 家族で出かける用もないので、夕方、一人でヘルメットだけをもって外に出て二時間ほど走ってきた。隣の市にある小さな図書館。なぜ図書カードもないのにそんなところに向かったのか分からない。十…

小学生への読み聞かせの勉強会で、先輩ママたちが神谷美恵子について話しているとき、上沼恵美子の顔が浮かんできて仕方がなかったという妻だけど、雑念を克服する中でこんな話を耳にとめてきた。 神谷美恵子が翻訳したある外国詩人の詩のイメージによると、…

金曜の夜。テレビをつけ、チップスターを口に運びながら、妻とささいな話をした。 今日、区の公会堂で地域の学校から小学生が集って音楽会が行われたらしく、息子がそこから持ちかえってきたという土産話。 ステージに上がったら客席の中に幼稚園の旧友が七…

「母ちゃん、18才で亡くなった、あの桃太郎みたいな人誰だっけ?」 「天草四郎かな」 「あー、それそれ」

「明日、もう運動会か」と独り言を言いながら息子が学校へ出て行った。「まぁ同じことをやるだけだけど」 小学校に入って三回目、正直慣れたり飽きたりしてきた部分もあるのだろう。それに加えてソーランもかけっこもリレーも、このひと月ずっと学校で皆と練…

7月某日。 夏休みが始まったばかりの暑い日曜日、野球をするために近所のいつもの場所まで歩いた。学校の横の下り坂に沿って一段下がったところにあるグラウンドで、学校とは反対側の周囲に高いフェンスが張ってある。網の向こうには静かな民家が立っている…

横浜創学館-鎌倉学園戦を見に行ってきたよ。 応援していた鎌倉学園の勝利も、楽器が加わってちょっぴりカッコよくなった応援団もよかったけど、試合前と九回最後の攻撃前、対面のアルプスで爆発した創学館のブラスバンドが美しかった。『人にやさしく』が横…

鎌倉学園高校がまだ勝ち残っている。準々決勝の藤沢翔陵戦は延長までもつれてTVKの中継も途切れてしまったが、ニュースによれば十二回の裏にサヨナラ勝ちしたらしい。校歌斉唱を録画できなかったことを息子は残念がっていた。 春の大会の横浜高校戦を現地で…

テレビでスポーツを観戦しているときに、テレビに向かって文句を言っていることがある。応援しているサイドの戦い方が思い通りにいっていないと、もどかしさが言葉になって出てきてしまう。だから文句の多くは敵ではなくて、応援してる味方に向けられたもの…

昔、テレビでやっていたリーマンショックの番組の中で、自動車工場から派遣切りされた労働者がインタビューに答えていた。 「誰にでもできるような仕事だったから」 悲しい言い方だと思った。それ以上に、間違った言い方だと思った。 部品をカートに積んで組…

昨日の友ヶ島へは、結局三人で行った。お義母さんは、僕たちのために天ぷらを作る時間が無くなると言って固辞された。 義妹が妻にこんなメールをくれたらしい。 「ママの思い通りにならんこともあるやろうけど、いろいろと欲が出てくるのも、お姉ちゃんがマ…

友ヶ島 島の西側の丘の上にある大戦期の砲台跡で、息子は暗闇や軍の営みよりもマムシを怖がった。 石畳のトーチカから顔を外に出した妻は、平和な風景だと言った。 急直下の白い断崖を上ってくる海の風。男女の学生たちのスニーカーに踏まれる丘の上の青草。…

友ヶ島についての、昔から何度も聞いてきたエピソード。妻が小学生の休日、一家で遠足に出かけた。船に乗り、島に着いて、えっちらおっちら見晴らしのいい高台まで登ってきて、「さぁ、おやつだ」という段になると、みかんの缶詰を開ける缶切りがなかった。…

どういう話の流れだったか、深夜に居間でコーヒーを飲んでいるときに大学時代のバイトの話になった。長い休みの期間に国際会議場での単発のバイトを入れる程度だった僕とちがって、妻は僕と出会う前の一回生の時から、わりとみっちり働いていた。平日の五日…

みんなで六畳間で高校野球を見ているときに、妻に義妹から電話がかかってきた。「エーッ!?」という悲鳴のあとに、「K君、インフルで来れなくなったって」。すぐに六畳間でも悲鳴が上がった。息子だけはまだ声も出せずに口を開けている。楽しみにしてきたの…

早朝四時に起きて旅の準備をした。和歌山への帰省だが、途中で甲子園に寄ることになっている。決めたのは前々日。何事も億劫に感じてしまう性格のせいで前もって計画するのが苦手だ。先々の計画に対して不安を感じる期間をなるべく短くするという心理が働く…

「孫の手がない」と言ってから、どこかで聞いた口ぶりだと思った。 「給食袋がない」と訴える息子の調子。 「リモコンがない」と騒いでいた父の声音。 どの辺りから伝授されてきたかはわかっている。 手を止めて小走りに畳の間に入っていく妻の、髪留めをし…

テレビの中で、先頭の青学が戸塚中継所を通過したときにようやく重い腰を上げる決心がついた。ランナーが時速20kmで走っているとすると、横浜駅の東口はもう間に合わなさそうだけど、横浜東京間の道のりを考えるとまだゴールまで一時間半の余裕がある。どの…

サイコロに いい目出るなと 願を掛け

桜島。 広陵の中村が一本目のホームランを放ったときはフェリーの乗船待ちの車の中でラジオを聞いていた。 午前なのに日は高く上っている。日の光を遮る雲も今日はほとんどない。ゲートの近くで車の誘導をしているおじさんの顔が潮に焼かれたような褐色をし…

熊本のホテルを出るとき、ロビーの売店でくまモンと出会ってしまった。 けれどもそこでは買わなかった。熊本城に行けばほかのくまモンがいるかもしれないと言って。 熊本城の土産物屋のワゴンの中に他のくまモンを見つけた。僕は、少し安いけれどホテルのく…

関門海峡。工事中の展望台。無音で行き交う貨物船と、男島、女島。 阿蘇。霧の下の一画に、探査機の窓から覗いたかように見えたカルデラの村。パシャパシャとたくさん写真も撮ったこういう名所旧跡よりも、一枚の写真も残っていない小倉のスポーツショップの…

開会式は朝8時頃に家を出たので見られなかった。東海道新幹線が小田原城、熱海城、掛川城、名古屋城、清州城、彦根城、姫路城、岡山城などの横を淡々とチェックポイントのように通過していくあいだ、スマホのスコアボードも彦根東-波佐見、済美-東筑と進んで…

結局この夏休みは高校野球に明けて暮れた。きっかけは、ちょっと泳ぎにでもいこうかと目指した市営プールのある公園に野球場があって、そこで入場料大人500円、子ども無料で観戦することになった地区予選の試合だった。はじめて生で目にする球児たちのプレー…

夏休み序盤の夜。部屋に入ってきた妻が言った。「『オレ、スタンプラリーはもういいわ』だって」 しばし、沈黙。そのあと「そりゃそうだよね」と二人同時に出た。 そりゃそうだ。長い夏休みの過ごし方は改めて考え直さないといけないけど、それをふまえても…

昨日は息子と同じ日に生まれた二人の友だちが遊びにきた。出産のために入院した病院で母親同士が知り合い、退院してからも連絡をとりあって毎年この時期に誕生会を開いている。みんな八才だから今年で八回目。友達は男の子と女の子で、男の子の方には四才に…

五月某日。 春になると空の透明度が落ちる。星座の輝きは鈍くなって、視認できる星の数は少なくなるけど、偏西風の弱まりにつれてよく見えてくるものもある。 たとえば春の惑星。 冬には見えなかった木星の二本縞。 なぜか音の響きを感じる空間に浮かぶ土星…