2017-01-01から1年間の記事一覧

桜島。 広陵の中村が一本目のホームランを放ったときはフェリーの乗船待ちの車の中でラジオを聞いていた。 午前なのに日は高く上っている。日の光を遮る雲も今日はほとんどない。ゲートの近くで車の誘導をしているおじさんの顔が潮に焼かれたような褐色をし…

熊本のホテルを出るとき、ロビーの売店でくまモンと出会ってしまった。 けれどもそこでは買わなかった。熊本城に行けばほかのくまモンがいるかもしれないと言って。 熊本城の土産物屋のワゴンの中に他のくまモンを見つけた。僕は、少し安いけれどホテルのく…

関門海峡。工事中の展望台。無音で行き交う貨物船と、男島、女島。 阿蘇。霧の下の一画に、探査機の窓から覗いたかように見えたカルデラの村。パシャパシャとたくさん写真も撮ったこういう名所旧跡よりも、一枚の写真も残っていない小倉のスポーツショップの…

開会式は朝8時頃に家を出たので見られなかった。東海道新幹線が小田原城、熱海城、掛川城、名古屋城、清州城、彦根城、姫路城、岡山城などの横を淡々とチェックポイントのように通過していくあいだ、スマホのスコアボードも彦根東-波佐見、済美-東筑と進んで…

結局この夏休みは高校野球に明けて暮れた。きっかけは、ちょっと泳ぎにでもいこうかと目指した市営プールのある公園に野球場があって、そこで入場料大人500円、子ども無料で観戦することになった地区予選の試合だった。はじめて生で目にする球児たちのプレー…

夏休み序盤の夜。部屋に入ってきた妻が言った。「『オレ、スタンプラリーはもういいわ』だって」 しばし、沈黙。そのあと「そりゃそうだよね」と二人同時に出た。 そりゃそうだ。長い夏休みの過ごし方は改めて考え直さないといけないけど、それをふまえても…

昨日は息子と同じ日に生まれた二人の友だちが遊びにきた。出産のために入院した病院で母親同士が知り合い、退院してからも連絡をとりあって毎年この時期に誕生会を開いている。みんな八才だから今年で八回目。友達は男の子と女の子で、男の子の方には四才に…

五月某日。 春になると空の透明度が落ちる。星座の輝きは鈍くなって、視認できる星の数は少なくなるけど、偏西風の弱まりにつれてよく見えてくるものもある。 たとえば春の惑星。 冬には見えなかった木星の二本縞。 なぜか音の響きを感じる空間に浮かぶ土星…

春。妻と息子とプールへ行き、水の中に遊ぶ二人を眺める。 プールの水に潜ると地上の音が遠くなる。そしてほかの音が近くなる。 静かな水面の下に見えていた液体の、ずっしりとした重たい流れ。その抵抗を突き破って口から排出される空気の泡のたてる音。吐…

地元の旧友と会うために妻がせっせと出かける仕度をしているときに、息子から携帯を貸してくれと言われて手渡した。何に使うとも言わずに黙って妻の携帯と合わせて畳の上に並べる。この忙しい時に、と妻に急かされながらハタハタと二つの携帯の画面を何度も…

最後まで寝ていた床の間で目を覚ますと、こたつの上に城の絵が置かれている。天守が正面から、城郭が上方から数色の色鉛筆の線を使って描かれている。昨日訪れた大阪城に似せた天守は自由帳の紙面の中に堂々と居場所を占めて、一枚の紙の中に上から下へと重…

新幹線のチケットにある指定の座席を見つけて腰を下ろしたあとに大人がやることといえば、ほっと息をついてペットボトルの水を飲みお菓子の袋を開ける、持ってきた本や雑誌のページに目を通し始めるといったところだが、自分もかなり前からそんな大人になっ…

前の日から リュックを背負う 春休み

ねえねえと肩をたたいて、声を出さずに「バーカ」と言う。 妻は本気の怒り顔をしてくれる。

一年ほど前、幼稚園の園庭でのこと。 年長だった息子が気分良くブランコを漕いでいた。すると隣に年下の子が勇んで現れて、息子より高くブランコを漕ぎ上げた。 横目に見て自分には到達できない高さと悟った息子、おもむろに 「オレ、止まるの得意だから」と…

誕生日の前日の夜、妻と息子に誘われて山下公園から船に乗った。一年で一番寒いこの季節とあって船内は他に三組いるだけのほぼ貸切状態。席が広く使えて気兼ねもないのだが、予定されていたバンドの演奏が中止になって、それを知らされた夕方に母子でちょっ…

前夜の酒の席で友人から勧められた場所へやってきた。 伊勢神宮。 空気が澄んでいる。寒いとか冷たいとか、そういう判断を下す前にそれは体の中に入っている。足元で砂利の音が冷ややかに響く。足を止めると風のそよぎもやむ。すると人の気配が強くなる。高…

朝、目覚めると日射しと人の気配があって、体を起こすとソファーの上で大きなヘッドホンを頭に載せて箱根駅伝を見ている二人の後ろ姿がある。僕の気配を察すると、妻がヘッドホンを外し席を立って台所へ歩いていく。 今年もそんな正月。神社に参ったり参らな…