熊本のホテルを出るとき、ロビーの売店くまモンと出会ってしまった。
けれどもそこでは買わなかった。熊本城に行けばほかのくまモンがいるかもしれないと言って。
熊本城の土産物屋のワゴンの中に他のくまモンを見つけた。僕は、少し安いけれどホテルのくまモンと同じだと言った。息子は、少し違うと言った。
僕は本当に同じだと思って言ったのだが、違っていたらまたホテルに戻らなければならないという思いも無くはなかった。
炎天下、中国の市場のような喧騒の中で押し問答が続いた。同じだと思う。違うと思う。
暑さに耐えられなくなって涼をとるために、別の土産物屋に入ったときに、あっ。
店の奥の木の棚の上に息子がくまモンを見つけた。ホテルと同じくまモンの顔だという。手に取ってみると僕にも同じだと分かった。ワゴンのくまモンとは別の顔をしていた。
彼にはずっとわかっていたんだと、申し訳ない気持ちになった。

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明日横浜高校が当たる秀学館はこの辺りだとか話しながら車を西に走らせて八代海に出る。いつか友人が教えてくれたその海の美しさを、展望台から見たいと思って沿岸部をあちこち探したが見つからず、挙句は道にも迷ってしまった。「オレが運転してたらもっと迷っちゃってたと思うよ」と息子は声をかけてくれたが、結局落ち着いて海を見るスポットにたどり着けずに僕は拗ねていた。
鹿児島のホテルにつき、天文館でラーメンを食べた後も内心ずっといじけて居た。果たして、息子が寝付いてから夜のホテルで「ナビが悪い」などと妻と口喧嘩。
旅行に出る前から体調や神経の具合が優れず、今の自分に長旅ができるのだろうかと心配していたが、その割には元気に過ごせていた。けれども倫理的には、この日が底辺だった。こんな日があってはいけないということは、あれから月日が経った今も思っている。