関門海峡。工事中の展望台。無音で行き交う貨物船と、男島女島
阿蘇。霧の下の一画に、探査機の窓から覗いたかように見えたカルデラの村。

パシャパシャとたくさん写真も撮ったこういう名所旧跡よりも、一枚の写真も残っていない小倉のスポーツショップの方が心象に深く刻まれたのは、僕の中の何かを示しているのだろうか。前の日の夜に僕の半ズボンを荷物に入れ忘れたことに気づいて、妻がホテルの近場のスポーツ店を探してくれた。朝、外は激しい雨。晴天の下で試合が行われている甲子園のテレビ中継の画面に、『福岡で竜巻発生』とニュース速報のテロップが出る。作新学院-盛岡大付を見ながら時間をつぶしていたけどチェックアウトの時間になったので午前10時にホテルを出た。傘をさしてスーツケースを転がして信号を渡り1ブロック進むと、スポーツ店が入っている商業施設にたどり着く。球体を何分割かした形状の建物や直方体の建物が複合的に組み合わさって出来ていて規模は大きい。細い通路を通って中に入ると高いドーム式のテラスがあり、ドームの真下に円形の噴水が湧いて外の雨音と混じりあっている。開店直後でテラスにも店内にも客はほとんどいない。エレベーターで目的の階に上がるが衣料品店や雑貨店ばかりでスポーツ店が見当たらず迷ってしまった。店員さんが、一旦外に出て別の棟に移らなければならないと教えてくれる。屋外の回廊を通りその先に見つかったスポーツ店は天井が高く、フロアも広かった。陸上の室内トラックを思わせる青色で塗装された通路で分けられた各コーナーには種々のスポーツ用品の売り場がある。壁には広告やメジャーリーグの中継を流す液晶テレビが掛かっていて、カラフルなウェアや用具を身に着けたスポーツ選手の巨大なバナーも垂れ下がっている。そのバナーの下に並んだ道具の多彩さと目的別・大きさ順に並べられた整然さ、宣伝文句の一様性(軽量、パフォーマンス、速乾、カーボン、通気性)。家族と一緒に入り込んだ迷宮で僕らの気持ちに馴染んだのはきっとそういうものだった。限定され整理された冒険のニーズ、さながら現代の羅針盤、六分儀、クリッパー。
そこで半ズボンと間違えて海パンを買い、野球コーナーで息子と金属バットを見ていた、という話。