五月某日。
春になると空の透明度が落ちる。星座の輝きは鈍くなって、視認できる星の数は少なくなるけど、偏西風の弱まりにつれてよく見えてくるものもある。
たとえば春の惑星。
冬には見えなかった木星の二本縞。
なぜか音の響きを感じる空間に浮かぶ土星の佇まい。
双眼鏡を覗いていて、木星の本体の模様を確認するために「ちょっと待って」と子どもが室内の本棚に駆けていった。
その姿を目で追いながらおもう。何が木星の縞模様だ。何が宇宙図鑑だ、と。
だってお前はあそこから来たのではないのか。
夜風にあたる赤ちゃんの瞳が、余りにも純真に星を眺めていたから、親たちは胸を痛めてきたのだ。