さらに18x70の話。
5月の末にあった火星の大接近の際にもこの双眼鏡を使ってみた。この頃、火星はさそり座の頭の近くにあって、すぐそばの土星や、逆方向に大円を描いて西の空高くに引っかかっている木星とともに、にぎやかな黄道の眺めを成していた。それぞれを代わる代わる視野に収めると、極低温の暗黒に浮かぶ土星の孤独、衛星の舞いに伴われて壮麗な木星の姿に比べて、火星は錆びたような赤茶けた光がぼっと円形に灯っているばかりで、どうにも見どころを挙げようがない。
確かに日を追うごとに姿は大きくなっていたが、それも最接近の日、それをみた息子に「成長したほじね〜♪」と評されていたようにやはり何の変哲もない。あれだけ大きくなれば、望遠鏡なら極冠や運河なども見えてくるのだろうが。
幼児に鼻くそに譬えられても仕方ないほど月並みな有様、それがこの双眼鏡で見た火星の姿だ。