和歌山へ里帰りしたときのこと。
初日。息子からもらった手足口病で口のなかが痛い。まだ西日のきつい夕方に妻の実家に到着。義妹の旦那さんが、僕たちのために日本海まで行って釣ってきてくれた魚(イサギ、カワハギ、アユ)をお母さんが料理してくださる。夜は銭湯。男湯の給水器が故障中で、一滴の水分も摂れないままサウナで気合を入れる。
二日目。口内炎がひどく、せっかくお母さんが買ってきてくれた鯖寿司が口にできない。息子がヒィーヒィー言っていたとき、「バナナだと沁みないから痛くないよ」とこちらは適当アドバイスを送っていたが、バナナでも全然痛かった。夕方から高野山をさらに上った鶴姫という場所に僕の運転で星を見に出かける。メニエール病で自分の運転でないと酔ってしまうお母さんも気合を入れて着いてきてくれた。紀ノ川の南側を東に向かって伸びる県道は、六七人の家族に女手一つで飯を食わせていた彼女が、奈良や大阪の得意先に通うために四十年前によく使った道だという。山頂の星空は見事。天の川に沿って双眼鏡を流していくと、銀河系内の無数の散開星団が次々に視野に入ってくる。肉眼では夏の大三角を見つけることが難しいほどの満天の星。妻とさそり座がどうだの話していたときに、息子が放った一言が至言だった。「オレは星座なんでどうでもいいんだよ!綺麗な星が一杯あって、それを見ているだけでいいんだよ」
三日目。アメリカで夏休暇を過ごす義妹と甥を関空まで見送る。夜になって上ってきた下限の月を双眼鏡で見せるとお母さん、初めて見るクレーターに感激してくださり、「○(甥)に見せたりたかったぁ〜」。深夜まで星図片手に一人で星を探していると、妻が短パンのまま家から出てきて一緒に空を見上げてくれる。
四日目。僕が試乗できるように、義妹が実家に届けてくれていたCX-5を駆って市内までお墓参り。夕方からみさと天文台。僕の大学院進学が決まったときに、妻が肉とホットプレートを持ってきてくれて一緒に宿泊した場所で、宿泊サービスは今はやっていないらしい。105cmの望遠鏡があり、ベガ(織姫星)とアルタイル(彦星)、アルビレオ(はくちょう座の二重性)、土星、リング星雲(M57)を見せてもらう。衛星や輪の影を伴う土星の雄姿には、星に興味もなさそうな一般のお客さんからも歓声が上がっていた。流星や天の川も美しく星三昧の一夜だったが、十八年前に泊まったバンガローを見たときが一番心に来たと妻が話していた。
五日目。自分一人で帰京。夜中の四時まで仕事。
双眼鏡を手に入れた興奮さめやらず、さまざまな人を星見に付き合わせてしまったが、振り返ってみると思い出すのは空を見上げていた人の姿ばかりだ。宇宙まで家族を見に行けるなんて本当に贅沢なことだ。