公園近くの路上で妻と別れた。妻と息子はお互い何度か振り返っていたけどタイミングが合わなくて、僕らはそのままゲームセンターへ行ってマリオカートをプレイした。
電車で駅まで帰ってきて買い物を済ませ、スーパーの外の階段を上ると、二人の主婦が空を指さしてなにやら囁き合っている。眺めてみると、西側の夕日を背景に細長い空気の渦。「竜巻かなぁ」。その方角が妻のいる病院のある辺りだと思い当たって、息子の表情が少し不安げになった。「大きくないし、建物の中にいるから大丈夫だよ」。家に帰ってベランダから双眼鏡を覗いてみると、渦はもう止まっていて、崩れた跡が風に流されて扇形に広がっていた。
着替えを用意してお風呂、保湿。それから夕食の準備。基本的に妻が冷凍してくれていたカレーを解凍するだけだが、慣れていないとやっぱり手間がかかる。凍ったところが残っていたり、水がしみ出したり、逆に温め過ぎたり。汽車の本を読みながら待っている息子の口から、普段妻の前で口にしている鼻歌が出ていて安心する。
テレビ、お絵描き遊び、歯磨き。
布団はいつものように三枚敷いて、真ん中の妻の布団に僕が寝ることにした。就寝前に「母ちゃん、いつもこれだけのことやってくれてるんだ。有難いね」と僕が言うと、「でもはーちゃん(僕の呼び名)はお仕事もあるから、今ははーちゃんの方が大変だよ」なんてことを言ってくれる。そう言えば、妻と別れてゲーセンに向かう道すがら、「明日病院で『母ちゃん!ガンバレっ!』って叫んだら絶対ダメだよね」といいながら笑っていた。楽しくて優しい子。それでも所詮はまだ母親の体温に縋る六才児。夢の中ではそれなりに苦しい想念と闘っているようだった。代わりのぬくもりを与えらない僕のもどかしさも、まあそれなり。