昨日から何度も息子のことを妻の呼び名で呼んでしまう。初めての二人生活を前に不安もあったけど、考えてみれば此奴との付き合いももう六年。魂は安心しきっているようだ。
今日は幼稚園を休んで妻の手術に付き添う。待ち時間も長いだろうから、暇つぶしの道具を色々とカバンに詰め込む。お絵描きセット、本、折り紙。
病院に着くと妻はもう点滴をつけられて手術着を着ていた。今回の手術はそれほど大きなものではないけど、一応全身麻酔で、前回、帝王切開時に調子が悪くなったこともあるので妻も僕も多少の不安はある。妻は麻酔との相性の懸念を看護婦さんに伝えたようだ。前の人の手術が長引いて、病室で待つこと二時間。
午後の一時に手術開始。三十分ほどと聞いていた手術は結局二時間近くかかった。心配そうに妻を手術室に見送った息子も、待ちくたびれるにつれノルアドレナリンの分泌が半端なくなってきて大変だった。病室のあらゆる器具に触りたがる。物音がするたびにドアを開ける。一分毎に「あと何分?」と訊いてくる。こういうときに、怒りのプログラムが起動しない自分の中のOSにはありがたいと思う。声の抑揚を変えて、相手の関心対象と行動をコントロールすることに集中。我が子とはいえ、相手の内面にまで手を入れようという妄念に憑りつかれたらお互いにあとが更に大変だ。
午後三時。手術は無事に終了。呼吸器をつけたままの妻はほとんど会話ができなかったけど、息子の呼びかけには手を差し出したり、頷いたりして応えていた。心配してくれていた両親と、妻の妹にメールを送ってから病院を後にする。明日、もう少し良くなってお話できることを楽しみに。