風切りの鳴る南側の窓のカーテンを捲ると、野心の塊のような灰色の雲が、山の向こうからベランダや家々の屋根に雪を降らしている。明日は遊べそうだなと、息子の寝顔を見下ろし、満ち足りた気持ちで寝床に入った。サンタでもあるまいに。
目覚めると飛行機の中みたいに明るい室内。二階の駐車場に上れなかった車が坂の途中で立ち往生している。山の雪は未明の雨に溶けて裾野に流れている。妻と息子は武装して、雪かきの準備を整え九時に下へ降りていった。方々から子どももお年寄りも長靴を履いて出陣してくる。
黴の生えかけた革靴を履いて下に降りた頃には、ボランティアが作った道ができて雪合戦が始まっていた。梅の木のそばに雪だるまを作る四人家族のジャケットが白く映え、息子は鼻っ柱に雪玉の炸裂を喰らった。一人でシャボン玉を飛ばしている少年。雪国出身の方が言っていた、雪国には雪だるまはほとんど見られないと。
親とその孫が雪を投げ合っている遠景に日が暮れて、都会の一日が終わった。後日届いた幼稚園からの手紙に「自然からの贈り物」という言葉があった。農村部では「贈り物」というには傍迷惑な被害を受けた家も多かっただろう。ただどの地域でも、それを受け入れた人と人との間には、予期せぬ心の交流が生まれたのではないだろうか。
今日会った人は皆美しかったような気がする。