結局昨日のピザは半分しか食べられなかった。Sサイズを三人で食べて半分だよ。じゃあMはどんな人のためのためのサイズかというと、高校生の子どもでもいそうな白人の夫婦、Lはロシア語訛りの四人か五人くらいの白人たち。
この日も夜明け前に目覚めて、朝ごはんはそうしてtakeoutしたleftover。昨日店で食べたときよりもずっとおいしい、と僕が言うと、息子も「あ、本当だ」と。一晩寝かせて旨味が出たんじゃない。親を信じてついて来ている彼もきっと腹に力を込めながら各所を巡っているということなんだ。今日、空港へ行く前に寄ったJohn Hancock Centerでもそう。ここはWillis Towerのガラス張りの床の代わりに、もたれ掛ったガラスの壁が傾いて空中にせり出すTilt!というアトラクションが目玉で、僕は身長チェックもささっと、事前の説明もそこそこに三人でやる流れを作ってガラスの横のバーを握ってスタンバイ。訳のわからないまま300mの高さから地上を見下ろして固まる息子。"I TILTED DID YOU?"のステッカーを貰ってから溢れだす笑顔。夜、友人家族と合流してから、彼なりに持ち出した名刺代わりの話題もこのTilt!だったから、よほどの充足感だったんだろう。
Lexington行きのゲートはターミナルの外れにあった。離陸の三時間近く前のチェックインだったから、ベンチに腰かけてサンドイッチを頬張りながら、シカゴの摩天楼街に降りたつこともなく、知らない町から知らない町へ旅立っていく人々の群れを眺めていた。

"Kathy, I'm lost," I said, though I knew she was sleeping
I'm empty and aching and I don't know why
Counting the cars on the New Jersey Turnpike
They've all gone to look for America

( "America" / Simon & Garfunkel )

日暮れの平原に見えた農場の風車、宝飾のようなCincinnatiの街並み、Blue Grass空港に迎えに来てくれた友達の家族。
大人たちが夕食の席に残ってまだ会話の一口を見つけ出そうとしている頃、友人の息子H君は息子を二階の部屋に連れ込んで何やら画策していたらしい。やにわに階段を駆け下りるけたたましい音。二人で構えたライフルから、大人たちに向けて発射されるおもちゃの銃弾。
子どもたちにはまだ、魔法がかかっている。