今日は朝からH君が通っている補習校の発表会に同行した。H君は二年前にこっちへ来て、平日は現地の中学校に通っている(十一才だけど、Kentuckyは5-3-4年制らしい)が、永住を決めた極少数の家族を除けば、父親の出張期間終了と同時に日本の学校へ戻らなければならず、受験への対応なども含めて有志の人々が日本のカリキュラムに沿って教えているらしい。場所は地元の中学校、とは言っても、なだらかな丘の上に立った一階建ての校舎という立地は小学校と変わらず、僕自身にとっても懐かしかろうと友人が誘ってくれたのだった。車窓に流れる町の郊外の風景は、ガードレールのない道路の風情から、芝や木々の色合いまで、昔住んでいたPennsylvaniaの田舎町(Hershey)とそっくり。友人の奥さんは、一週間前までは紅葉が美しかったのにこの前の寒波で散ってしまった、もう少し寒くなったら樹氷が見られるのに、と大変残念そうにされていた。西部のことは分からないが、アパラチア山脈の麓では向こうと此方で気候も植生も似ているのかもしれない。こんな風土には、バッハやショパンなんかより、昨日H君が練習していたGeorge Winstonばりの曲の方が良く似合う。発表は『大造じいさんとガン』の暗唱、H君は見事にトリを務める。
中華系のバイキングで昼食を食べたあと、三時頃から車でKeenland競馬場へ。夕日が沈む先の地平線まで延々と続く草原、それを柵で囲いました、という風情の古く瀟洒な競馬場を、パドックを歩いたり、暗い階段を抜けてスタンドの最上階まで上ったりしながらゆっくりと周る。今年の開催はとうに終わっていて他に誰もいない馬場に、子どもたちが引き倒す木製のベンチの乾いた音が響いては消えていく。澄んだ空気に包まれた素晴らしい時間だった。あれがウィナーズサークルであれが投票所などと僕が並べる薀蓄に、ふんふんと頷いて、あたかも教えてもらっている体でこういう場を設けてくれた彼ら家族に、疼くほど感じていた内心の感謝は伝わっただろうか。