式後の食事の時間に、おばあちゃんの妹にあたる大叔母が、子どもを作らなかったことがこれまでの人生で最大の後悔だなどという大きなことを、突然僕らに対して語り出したのだが、真顔のつもりらしい表情を浮かべながらも、いかにもあっけらかんとした口調で言うもんだから思わず僕は笑ってしまった。叔母さんはあくまで真剣らしく、妹と従妹に向かって絶対に子どもは作らなあかんでと、まるで遺言めいた真面目さで忠告を発している。それでも僕には彼女のその言葉が、真の悔恨から発せられた実感のある言葉のようにはどうしても聞こえないのだった。叔母さんは結婚してから定年まで小学校の先生としてずっと子どもを教えてきていたから、その頃はこれ以上子どもが増えたらかなわんと思っていたけど、この年になって(推定八十五才)初めて自分の子どもがいないことを後悔した、というのだが、その年になるまで後悔せずに済んだのならそれはそれで良いんじゃないかと思うし、血の繋がった子どもでないにしろ、何百人もの小さな子どもたちに囲まれながら過ごした四十年間は、他の人には経験しえない仕事人生だったのではないかとも思うのだ。何より、式の最中から食事会まで、呼吸の合った掛け合いで僕たちを楽しませてくれた叔父さんとの仲の良さは、子どもがいない夫婦ならではの近しさで、これまで何十年もかけて育んできた関係性から醸し出される自然な充足感を僕らに感じさせてくれたのだった。そのことを遠回しに伝え、それに妹が、いつまでも恋人みたいな、と合いの手を入れると、夫婦は照れた子どものような表情になって笑っていた。