ゴールデンウィークとは本来何の関係もない仕事をしている身ながら、世間のくつろいだ雰囲気が伝わってくると自然にこちらの気分も浮かれてきてしまう。暖かくなり窓を開け放つ家が多くなった中で、晩を過ぎてもガヤガヤと聞こえてくる家族の喧騒は、日本中で味わえるこの季節の風物詩だ。幸い今年も、休みを享受する友人や家族との間にいくつか予定が入っていて、人並みに連休の楽しさを味わう機会に恵まれている。そんな中、唯一空いた祝日である今日は、妻の提案で近くを川が流れる沿線の駅まで三人で小ピクニックに行ってきた。駅から歩いてしばらくのところに、川辺まで下りれる所があって、そこで岩場に腰掛けておにぎりを食べたり、息子を抱えて岩を渡って川面を一緒に眺めたり、妻と『私鉄沿線』を替え歌で歌ったりと、ただそんなことをしただけなんだけど、もううるさいと言われそうなくらい(合計すると20回以上)「楽しいなぁ」と呟いてしまうほど楽しいひと時だった。今日も風の強い一日で、つむじ風が何度も砂埃を上げながら僕らに吹き付けた。僕ら夫婦は内心ちょっと心配になりながらも、息子が怖がらないように大げさに声を出して気勢を上げてみせる。するとベビーカーの上の息子も笑顔で声を上げながらレバーをしっかりと握り体を前に倒して風に立ち向かっていこうとする。まだ言葉も話せず、一人では食事もできないし、立って歩くこともできないけれど、だからと言ってただ僕らの世話や庇護を待ったりするだけでなくて、僕らが楽しんでいる時には、家族の一員として一緒に楽しもうとしてくれることを、僕らがどれだけ嬉しいと思っているか。「いい子だね」とか「エラいね」とか、僕らの語彙はこんな貧相な言葉しか用意してくれないけど、僕らが本当に彼に感謝したいことは、どんな状況でもひとまずは楽しむための方法を見つけようとする姿勢であり、僕らを信頼して僕らに彼の心の中を想像させる自由を与えてくれていることであって、「いい子、えらい子であってほしい」ということでは全然ないのだが、さして複雑でもないそういう気持ちを簡潔に表現する手段がないことは、ときどき僕らをいら立たせ、もどかしい思いにさせる。
岩場からさらに川を数百メートル下ったところに、団地の屋上と川の欄干を結んだロープ上に大きな鯉のぼりが何十匹も泳いでいる場所がある。電車からその光景を見て知っていた妻の今日の目的の一つは、息子をそこへ連れて行ってその珍しい鯉のぼりの群れを見せることだった。僕がカメラに夢中になっている間に、妻は必死に息子に語りかけ、めでたい代物を見せようとしたらしいのだが、その間息子の興味を引いていたのは枝にとまった黒いカラスだけだったらしい。