今日は仕事も早めに終わり、妻もすぐに寝てしまって時間が余ったのでNHKオンデマンドというものを初めて利用してみる。過去に放送されたNHKの番組がネットで見られるというサービスで去年の12月に始まったものだ。このサービス、ライブラリーを見てみれば分かる通りラインナップは現状相当に貧弱だ。NHKスペシャルはシリーズものがいくつかアップされているだけで単発ものはほぼ皆無だし、ETV特集にいたっては「憲法」、「認知症」、「フジコ・ヘミング」の三篇しかやっていない。このサービスの存在を知った時、真っ先見たいと思った『アインシュタインロマン』と『フェルマーの最終定理』は当然のように含まれず。『映像の世紀』は再放送時にすべてDVDに落としていて手元にあるし、なかなかどれを見たものか難渋する。個人的にはその時々の時事問題を扱った報道番組を充実させてくれると、事件や社会問題に迫る目線や文脈の時代変化などが味わえて、相当に興味深い資料になってくると思うのだが。
というわけで若干失望しながらなんとなくというノリで「今月のピックアップ」で特集されている松本清張のドラマを見てみることにする。最初のドラマ(『遠い接近』)は紹介文でいきなり「戦争で全てを失った男が、殺人を犯した理由とは?」とくるので、次の『最後の自画像』(紹介文は、ある一人の銀行マンが定年退職した翌日に蒸発した…云々)を選んだのだが…。どっちにしても暗すぎたようだ。骨太なドラマであることは認めるし(脚本は向田邦子、演出は和田勉)、いしだあゆみを始めとする役者の演技にも芯が通っていて、昨今のドラマにはない作り込みを感じさせるのは確かだ。それにしても、登場人物のすべてを、妬み、凡俗さへの嫌悪、堕落への恐れ、他人の詮索のいずれかに基づいて行動させる作者のモノクロームな世界観には息が詰まる思いがする。そこでは誰もが決断を回避し、責任を負わず、結果苦境に落ちた人間に対して言葉を投げかける者もいない。一人の人間にとって間違いなく悲劇であった事件が、他の人間に対して新しい針路を示すこともなく、さしたる教訓ともならずに、ただ数珠つなぎ的に皆を暗鬱な沼地へと引きずりおろしていくだけという意志のない世界。運命というには余りに漫然とした展開が流れた後、ドラマは主人公の刑事が口にする「男とは、人間とは畢竟そういうものなのだ」という黒澤明的な説教によって締めくくられる。「仕事というものは、家庭というものは、男にとっては我慢のし通しだからねぇ」などと一般真理のように語られても、我慢などしたこともない人間、あるいは互いに我慢をしないためにこそ言葉や理性の働きがあり、我慢の必要が迫った時にこそ共闘のドラマは始まるのだと信じる人間にとっては見当違いなお仕着せでしかない。僕にとって我慢とは、むしろせっかく払った視聴料の手前、オチの見えた辛気臭いドラマを最後まで見続ける類いのケチな行為であるようだ。NHKオンデマンドはいよいよ見る番組がなくなってきた。