夜、おやすみをしてからしばらくして、寝室から悲鳴のような声が聞こえてきた。何事かと思ってパソコンの音声を切って耳を澄ませると、確かに僕の名前を妻が叫んでいる。周囲がすっかりと寝静まった中、二度目に聞こえたその叫び声は暗い廊下から異様な響きで耳まで届いてきた。一目散に駆け出して部屋に飛び込んだ僕に、妻は携帯電話を差し出してそのニュースを示した。僕はそれまで、レンタルビデオ店から大人借りをしてきた連続ドラマ版の『北の国から』を第一回目から見ているところだった。ビールも飲んでいたし、涙腺が緩みっぱなしで普段より過敏な精神状態にあったのは確かだ。それにしても時期が時期だけに…。部屋に向かう間、体に異変が起きてのたうち回っている妻の姿や、窓からカラスか何かかが飛び込んで暴れている様子など、ありとあらゆる悪い想像が体を駆け巡った。極度に高まった緊張感と、待っていた妻の無邪気な表情との落差に呆然としてその場にへたり込んでしまった。僕ら二人にとっての唯一のアイドルが結婚すること、彼の子供が僕らの子供の同級生になるかもしれないことなど、この期に及んではどうでも良いことだった。これほどニュース価値を減殺する演出法はまたとあるまい。