予備校ブギ』というドラマをTSUTAYAで借りてきて見ている。1990年の春にTBSで放送されていたドラマで、大人になってからも何年かおきに懐かしく思い出してはDVD化や再放送の予定をチェックしたりしていて、見つけられず残念な思いをしていた。またしばらく忘れていたのだが、2年前になってようやくDVD化されたらしい。内容は3人の予備校生の恋と友情を描いたコメディー。見返すのは高1以来はずだが、今見ても全然面白い。一緒に見た妻からは「15年付き合ってきたけど、こんな爆弾隠し持ってるとは知らんかった」と最大級の賛辞をもらった。脚本の筋はしっかりしているし、キャラの造形も見事、笑いのテンポもコメディー専門作家かと思わせる心地よい。つなぎの為のカットがほとんどなく、すべてのシーケンスに人物の交流と、ストーリーの重要な展開と、軽快な笑いとがバランスよく詰め込まれていて見ていて飽きるタイミングがない。それと、90年前後にドラマを見ていた人間なら懐かしさに目を細めるしかない豪華キャストによる力演。僕が改めて感心したのは、過保護なママ役を演じる白川由美の、間の取り方の巧さと仕草の美しさだった。ドラマにおいては脇役に過ぎず、言動もワンパターンな役柄でありながら、ここまでレベルの高い仕事をこなしていること自体、このドラマの完成度の高さを物語っているように思う。その息子で、優柔不断なくせに頑固でまじめな予備校生を演じる緒形直人のキャラ作りも素晴らしい。自分などは去年出た『ノルウェイの森』の映画化の話で、主人公をやるならこの頃の緒形直人に勝る人選は無いのではないかという気がしてしまった。役柄こそ全く違うけれど、両人物が他者に対してかもし出す距離感には似通っているところがあるように思う。ともかく受験ものではあるものの暗い雰囲気はなく、それどころか「そんなに勉強しないで大丈夫か」と毎話心配になるほど邪魔が入り、ドタバタやってくれる至極痛快なドラマである。この頃のテレビには、金もあったのだろうけど、それだけ人も熱意も集まっていたということなのだろう。
このドラマを20年ぶりに見返してもう一つ個人的に気づいたことがある。自分でも驚くほど台詞を記憶していたのだが、それがお笑いのシーンに限らず、マジな恋愛シーンでのやり取りをも含んでいたことだ。これは、当時の僕がこのドラマを割とガチな恋愛ドラマとしても見ていた証左ではないだろうかと思った。夜の公園で噴水に飛び込むシーン、夜景を眼下に告白するシーンでの台詞を僕は一々おぼえていた。その台詞を思い出す中で、15才の僕が「オレにも将来渡辺満里奈みたいなかわいい彼女ができるのかな」などと一瞬でも夢想したような、しなかったような記憶がおぼろげによみがえってきた。もうそんな想いをすることは二度とないだろうという確信が、この楽しいドラマに少しだけノスタルジーの影を差した気がしたのだった。