奥さんが家に帰った翌日の今朝、ラッキーが死んでしまったらしい。昨日銭湯から帰るとラッキーも帰ってきて、「なんや○ちゃんか。そんなことより飯くら」と餌をむさぼっているのを、足で蹴って邪魔していたのが最後の記憶になった。妹さんと一緒に、硬くなった体を袋に入れてずっと声をかけながら保健所の冷凍庫のある部屋まで運んでいった。
ラッキーといえば、12年前に初めて実家に上がらせてもらった時からずっと一方的に友情みたいなものを感じてきた。お互い人見知り同士の対面で無理して話すこともないとの計らいから、お母さんが猫と遊ぶ用に玉りんこを用意してくれていて、それを投げるとまだ幼かった彼は(本当はメスなのだがなぜか僕の中では彼だった)他の人が買い物や食事の用意をしてくれている間中ずっと遊びの相手をしてくれたのだった。帰りの車の中ではずっと「俺とラッキーとの間に友情が…」と繰り返していた記憶がある。あんなに無邪気に遊んだのはあれっきりだったけど、その後2年に1回くらいのペースで面会した時にも彼は一応こっちのことを覚えてくれているようだった。奥さんの誕生日に猫じゃらしをプレゼントした時にはみんなに笑われたけど、ラッキーと奥さんが遊んだ時の話を聞くのが大好きだったからあれはあれで真剣だった。無理やり風呂に入れたときの騒動、屋根に上って下りれなくなった時の喜劇的な顛末、妹さんの足の話など、ネコ語の解説付きで本当に何回もこっちから頼んでしてもらった。
話を聞いただけでどうもこっちは実感がわかないけど、冷たくなっていく体にずっと触れていた身にしたら堪えた一日だっただろう。きっと今頃はおばあちゃんの部屋に上がりこんでアホみたいに遊んでるやろ。だからこっちもアホみたいな顔して寝とったらええと思うで。お母さんはそんな訳にもいかないだろうけど…