さらに胸に迫るものは、その対照が痛ましいからなおさらなのだが、突如として喚起されしかもすぐさま消え去ってしまうもうひとつの世界である。遙かなる世界、はかなくも感動的なまでに平和な、家族の生きる世界であり、そこではどんな人間も周囲の人々にとってはなによりも大切である、そんな世界である。
彼女は家内の麗しい髪の侍女たちに叫んでいた、
火に大きな三脚鼎を懸けて支度を、
戦から帰ったヘクトールのために熱い風呂があるようにと。
無邪気な女だ。彼女は知らなかったのだ、熱い風呂どころではないことを、
アキレウスの腕が、碧の眼のアテネに援けられて、かれを殪したことを。
『「イリアス」あるいは力の詩篇』 S・ヴェーユ


夜中に家に帰ってきた。片付けられた部屋、冷蔵庫の中の6食分の食事。缶ビールを開け、ベランダへ出たりこの3日だけ解禁ということにして部屋で煙草を吸ったりしながらPink Floydを聴く。一人で部屋を占有するとこれほど時間の進み方が違うものだろうかと思う。京都のおじさんに会いに行って本当に良かった、という短いメールを読み返した。
こうして日記をつけていても本当に書きたいことはいつもひとつのことだけだ。酔った勢いで書いてしまうけど、それが言葉にできないから結局こういう日記になっている。僕はこのまま千年でも生きていたい。