遊水地へ続く道を下りていくと、子どもたちの声が一際大きく聞こえる。
試合をやっている。同じユニフォームを着た子どもたちがグランドいっぱいに広がってめいめいに声をあげ、Aチームのキャプテンであるしょうは打席に立ったHに檄を飛ばしている。
「タイミングはもっと早めでいい。球見てないと当たらないぞ」
Hは三振。次はしょうの打席。
「さあキャプテン対決だ」とコーチから声が上がった。
うちらが見ていることに気づいたのだろうか。結果はちょっと力み気味の三振。
うなだれて打席を離れるしょうにコーチから声が飛ぶ。
「しょう!K太、絶対に三振取る気合いで来てたから気にすることないぞ!」

今日が最後の練習になる子がいた。バスケと両立できなくて仕方なく、ということらしい。普段練習を見に来ないお母さんが晴れやかな顔でグランド脇に立っていた。
その子の最後の挨拶が終わって、何となくコーチの周りに子どもたちが集まっているとき、少し離れて話しているその子と息子がいた。何を話していたのだろう。シャイなその子がずっと笑顔だったから、思い出に残る時間に一人にならないように気を使ったのだろうか。それともTikTokのことが聞きたかっただけ?
その二人の傍らを「じゃあな、しょう」と、三振を奪ったエースが歩き去っていく。