ボランティア先でびっくりするようなことが起こった。お茶を飲みながらのいつもの座談中に、ベトナムの女の子がある男性におふざけ混じりに言い寄っていた。その男性が帰った後、皆で「完全にはぐらかされてたね」、「もう諦めた方が」などと囃しているうちに、話は別の若者の、将来の願望の話題に移った。なんでも彼はオーストラリアへの渡航を企てているらしく、今はそのために仕事の合間を縫って英語の勉強をしているらしい。向こうで仕事が見つかったら永住するつもりだと聞いて、僕が「それは大変だ、相手も向こうで見つけなきゃいけないし」と言うと、「できればこっちから連れて行きたいんですよ」というので「それは急がないとね」などと他人事のような返しをしていたら、突然ボスがさっきの女の子を指さして「お前、海外に永住したいって言ってなかったっけ?」
「言ってましたよ。海外に住みたーい」
「こいつなんかどうですか?」
「○ちゃんなら全然いいですけど」
「え、本当ですか?私なんかでいいんですか?」
「うん、後ろに誰かいてくれるのはとても心強いです」

こんな流れで三十分もしないうちに、初デートの日取りから、結婚式の会場まで決定してしまったのだ。長年続いている団欒の中でも、こんな展開は初めて。考えなしに行動するはずのないボスのこと、きっと深謀遠慮があるのだと、ねるとん紅鯨団とんねるず顔負けの仕切りで縁談を煽る彼の流れに弱々しく乗ってはみたものの、ハンパ無い違和感に心中顔色をなくしていた。こんなことが本当にあるのだろうか?三十分前まで他の男性に言い寄っていた女の子を?顔を赤らめて明らかに浮足立った様子の若者と対照的に、スマホの予定帳に新たなイベントが入って満足、といった様子の女の子。彼女が語りだした話に僕はさらに度肝を抜かれることになる。
「今テレビでドラマやってるんですよ。○曜日の○時から。あ、でもYoutubeでも見れると思うので是非見てください。恋愛ドラマなんですけど、好きじゃなくても結婚はできるというドラマなんですよ」
僕だったら意識が飛んでリングに崩れ落ちそうになる一撃だが、彼はグローブを前に構えて、目もまだ死んでいなかった。案外この二人、見込みはあるのかもしれない。