曇り。夕方三人で散歩に行く。妻が買い物をするために僕らから離れたとき、少しだけ泣いたけれども、それからずっと僕らは駅前の広場で静かに妻の帰りを待っていた。僕が両手を組んで揺り籠のような形を作った中に、息子は収まって、ただ静かに目を開き、息をしているのだった。初めは空を見ていた。彼が眺める先に目をやると、雲に蔽われた白い空があった。雲にはまだ昼間の光が溜まっていて、それは思ったよりも白かった。でもそれだけだった。休日の午後のありふれた曇り空に彼の目は飽くことなく浸っていた。定時になって広場に明かりが灯ると、今度は僕らに一番近い位置に立つ街灯の光をずっと眺めていた。ゆっくりと揺らしながら体を回転させても、彼の目がそれを追い続けていることは、彼の瞳に映る白い蛍光灯の影を見れば分かった。僕らはずっとそんな光の中にいた。彼の頬は雲の色に染まり、細い髪の毛が時折風にそよいだ。やがて妻が戻り、僕らは坂道を上って家に帰った。僕はビールを飲み、上機嫌になってビートルズの赤盤の曲を歌った。妻もコーラスを合わせてくれ、息子も楽しそうに付き合ってくれたが、疲れたのだろうか、いつもより2時間も早く眠りについた。
"What a Wonderful World"のなかに、僕の好きなこんな歌詞がある。

I hear babies cry, I watch them grow,
They'll learn much more than I'll ever know,

息子が見ているものは、すでに僕には見えないけれど、彼の目に映る光を見続けられるという希望が持てることはとても幸せなことだ。