晦日の日。
朝からみんなで大掃除を頑張って、夕方の割と早い時間に、近所の蕎麦屋さんに注文していたソバが届いた。まだ後片付けが残っていたし、風呂にも入っていなかったが、ちょうどいい温度に温められていたのでそのままいただくことになった。箸をとっていただきますをしようとしたときに、妻がおもむろに声を上げて「みんな今年一年ごくろうさまでした。家族それぞれ健康で無事で、こんな美味しそうなおそばを頂けてありがたいことです。みんな本当にありがとうございます。そして来年もよろしくお願いします」。思いもかけない演説に僕と息子が「どうした、母ちゃん?」という顔で目を見合わせていると、「って、お父さんが言ってたの」と妻が言った。お父さん、お母さん、おばあちゃん、妻、妻の妹が集っていた食卓に、お母さんは今一人で向かっているのだろうか。三十年前の、大晦日の団欒の風景を思い浮かべながらおいしいソバを口に運ぶ。