一週間があっという間に過ぎてしまった。ずっと好天に恵まれず、ベランダから眺める西方の雲は富士山を隠したままだったが、この間、普段関東圏にいると逆に訪れる機会のないさまざまな場所に連れていかせてもらった。東大では、昔は一度も寄ることなかった三四郎池でのんびり鯉を眺め、安田講堂下の学食でみんなで安いラーメンや定食を食べた。東京スカイツリーを訪れたのは強い風と雨の日で、地上350mのデッキに上ると白い雲の他ほとんど何も見えなかった。息子はタワーの上半分が雲に消えた不思議な姿に心惹かれ、甥は「生きているみたい」とその実在感を表現していた。僕が留守番をしていた日は四人連れだって、鎌倉の大仏を巡る江ノ電の旅。妻と妹さんが即席で作った料理とお酒を持ち込んで、実家で賑やかに晩餐したこともあった。そして子どもたちが寝静まってからは、毎日深夜まで涙あり笑いありの思い出話、子育て話。
最終日は妻の誕生日でその日初めて富士山が姿を見せた。レストランでハッピーバースデイを歌い、家に帰ってから母が届けてくれたケーキを食べた。甥から妻への手紙、妹さんから手作りのアクセサリーのプレゼント。妻と息子が席を立った時に、妹さんがしてくれた話。「親みたいなこと言うね」と僕は言って誤魔化したが、本当は嬉しくて泣きそうだった。
ある朝、寝床で粘っていると、甥が布団の中に入ってきて僕の手を頬に当て、「あぁ、やっぱ暖かいな。お父さんみたいや」と言う。彼のお父さんは二年前から単身赴任で頑張っている。そのお父さんの住む名古屋へ向けて今朝早く母子は出発した。甘えずひたむきに生きている人だけが放てる幸せと元気を与えながら、彼らの長旅はもうしばらく続いていく。

  • Super Trouper / ABBA