実家の車を借りて伊勢原大山ケーブルカーへ。家に置いてあった小冊子に載っている写真を見つけ出して自分から行きたいと志願しただけあって、駐車場から駅まで十分以上続く急な参道も自分で歩き、改札が開くとケーブルカーの車体の隅々まで目を凝らしたり、滑車に巻かれたケーブルによって動作する仕組みを頭に入れたりと研究に余念なく、親としては連れて来甲斐のあることこの上ない。標高七百メートル、伊勢原市街から相模湾伊豆大島まで見渡せる展望台で茶屋に入り、おにぎりとソフトクリームをいただく。窓を開け放った店内に山肌の緑を上ってきた風が吹き抜け、登山を終えて座敷で足を伸ばしていた高校生が汗を乾かしている。
帰って風呂に入り、二人が出てからも一人で湯に浸かって、今日も花がほころぶように過ぎていった一日のことをぼぉっと思い出していた。二人きりになって妻が息子に「今日は父ちゃんに連れて行ってもらってよかったね。お風呂から出てきたら、ありがとう、って言おうね」と言うと、「うん」と答えた後、しばらく考えてつぶやいた言葉が「かあちゃんも、つれてってくれて、ありがと」。「○君がそう言ってくれて、母ちゃん凄く嬉しい」と言った後泣きそうになっていた妻の横で、息子は布団に顔を埋め身を捩って目一杯照れていたそうだ。