ケンコバと言えば思い出すのが、これもまた今年好印象だったこの曲のボーカル。映画の方は、安っぽい涙を搾り取られて、結局後にはあまり残らなかったけど。
このグループの魅力の一つはヒップホップ調のフレーズに重ねられるコーラスの異例の美しさだろう。このジャンルの音楽に特有の上下行の少ない主旋律に対して、不意に立ち上がり、主旋律とぴったりと等間隔の音程を保ちながら、管楽器のロングトーンのように息長く寄り添っていく副旋律の進行。2番のBメロにある"寂しい別れを いくつもこの先 新たな出会いを 重ねて大人に"は、最後から2番目の音以外全て単音で通されているフレーズだが、艶のある2つの声が気持の良い拍を刻みながら4小節にも渡ってこの単音を奏で、まるで夜の光の中で出会い、並走した電車がやがて離れて闇の中へ消えていくように、あっけなくしばしの連唱を終えていく。歌詞の中で繰り返し語られる出会いと別れの顛末は、そのまま2つの声によって体現される音の進行の劇でもある。肯定的なメッセージにもかかわらず曲全体に漂っている寂しさは、車窓から束の間に対面する電車に寄せる僕らの想いの切なさでもあるだろう。