夕方家を出てみると自宅前の路上がうんこ臭い。飼い犬か何かのフンの不始末だろうか、あるいは猫が勝手に用を足したのだろうか。屈んで目を凝らしても暗くて匂いの主の姿は見つけられない。しばらく前にも同じことがあったのだが、人為的にせよ何にせよこうやってコンクリートの上に放置されると微生物も分解を助けてくれないので、しばらく家を出入りするときにはこの匂いと付き合わなくてはならない。早く大雨でも降ってくれないかな、と妻に話すと、わりと大きな台風が近づいているとのこと。そうか、それは良かったと思いながら僕は、南シナ海上の無人の一角で発生した、ある明確な使命を帯びた台風が、勢力を拡大しながら北上している姿を想像する。するとすぐにこの状況は前に見知った何かに似ているぞとの不審な思いに駆られた。それが昔愛読した本のラストのシーンであったということを思い出すまでに大して時間はかからなかった。

僕は地面にしゃがみ、鳥を待った。鳥は舞い降りてきて、暖い光がここまで届けば、長く延びた僕の影が灰色の鳥とパイナップルを包むだろう。
限りなく透明に近いブルー』 / 村上龍