初めての車の契約に行った日の日記から。
10月3日。今日は登山の日らしい。
売店でオプションや保険の説明を受けているときに、妻とヒソヒソと話している気配があったあと、息子が肩をたたいて耳元でささやいてきた。「ホンダセンシング、追い越しの時に、レーンをはみ出た(警報)音が出ないか聞いてみて」
この一ヵ月、カタログとにらめっこをしながらそこまで具体的に考えてくれていたことに驚いた。そういえば、二年前、トイレを買いに行ったときもそういうことがあったな。みなとみらいのショールームで店員さんに、「正確な数字じゃなくてもいいですけど、マンションのトイレの大体の大きさ分かります?」と聞かれたとき、戸惑う両親をさしおいて「縦は○○○センチ、横は○○センチくらい」と答えていた。妻に聞いたら、カタログ見ながら自分でメジャーを持って測っていたって。帰り道、「ありがとう、助かった」と言うと、「ピッタリじゃないかもしれないけど大丈夫だよね」ってちょっと不安そうにしていたから、二人で慌てて「大丈夫!大丈夫!あと工事の方が来て、正確に測ってくれるから」と言ったけど、本当はもっと色々なことが言いたかった。代わりに、その時に撮ったみなとみらいの夜景の写真が残っているから、日付も分かる。2017年11月3日。
夫婦交代で店の周りを試乗させてもらったんだけど、店員さんが助手席に乗り、妻が運転して、僕と息子が二列目シートに座っているときが一番楽しかったな。リクライニングを目一杯倒して横になったり、店員さんにエアバッグの場所を聞いたり、ミラーの横にある装置について尋ねたり(ドラレコ)。詳しいね、と言われて、対向車の車種言い当て大会が開幕したのはいかにも小学生の男の子だったけど、僕と店員さんがホンダの話を始めたら、「はーちゃん、マルケスも好きだもんね」と合いの手を入れてきたとき、この子なりの責任感で車選びの場に貢献しようとしてくれているのが分かった。
会話が途切れ、一息つく。車は住宅街の坂を上っていく。
「乗り心地いいね」
「そうだね」