「最初にジローに会ったとき、帰りにお蕎麦屋さんに行ったんだよね」
そうだったかもしれない。そして、ワンチャンを飼うのは簡単じゃないよという僕らの説得のあとその話は一旦鞘に納まった。大切にしているぬいぐるみが咬まれるかもしれないしね。
二回目に会ったときは、もう三人の心が掴まれていた。ペットとして飼われるためにお店に並べられている彼らが、どれだけの人の手を渡ってここにたどり着いたのかを僕らは知らない。店員さんが去り、電気の消された店内でどのような夜を過ごしているのかも分からない。疲れているように見えた、といったらそれまで関わってくれた人たちに失礼だろう。ただその犬は、何かを一生懸命受け入れてきた者の佇まいで、長椅子に腰かけた妻と息子の太ももの隙間にずっと身を横たえていた。