昨夕の雪は夜半に止み、コンドミニアムの真向かいにある山際から鮮やかな朝日が昇った。薄く残った雪が土の上で固まって、山の地表をラメのように輝かせている。KentuckyはChicagoに比べれば寒さはかなりマシだったけど、更に南にあるこの土地は標高のせいもあって、晴れていても空気は相当に冷たい。気候の変化に順応しつつある息子が、朝からこんなことを言う。「オレ、日本でみんなが寒いって言っても、暑いって言っちゃうかもしれないな」。
昼前からそんな山の中をトレッキング。めいめい落ちている枝を拾って杖がわりにして、ゆっくり上っていくと、倒れて川の上に橋のようにかかった木、円筒状に中をくり抜かれた大木、風雨で削れて自然に出来上がった洞穴などが子どもたちの目を引いて、大人にとってもちょうど良い休憩になる。すれ違う人から送られる、その日のこちらの気分を決定してしまうくらいの素敵な笑顔。
夕方からは、奥さんの提案で、男だけで挑むカレー作り。男たちは当然、その気になって、おいしいと言われご満悦なわけだが、発案から材料調達、部屋の提供まで全部友人夫妻、わけても奥さんがやっているわけだからね。でもそういうことに気づくのが遅れるくらい上手に男を立ててくれるもんだから、こっちもついつい調子づいてしまう。
へとへとになった子どもたちが寝ついたら、例によってどちらかの部屋に大人四人で集まって、夜が更けるまで延々とおしゃべり。Lexingtonにいた頃も含めてもう何夜目になるだろう。それぞれの生い立ち、出会い、日本とアメリカとの違い、UK Basketballのこと、子育て、学生時代の思い出話。コンタクトレンズを外し、寝間着姿で、話に夢中になる妻たちに、昼間の母親としての面影はない。カーペットの上で姿勢を崩して、数十年前の自分の夫が今ここにいるかのように、自分がまだ聞いたことのないエピソードを求め話を促してくる妻たちは、彼女たち自身が二十歳の頃に戻って、あの頃の夜更けの限りない自由を楽しんでいる。お酒のせいもあったのだろう、この日はいくつかの打ち明け話があった。
酔い覚ましにベランダへ出て、カバノキの上でさっきから位置を変えたオリオンを見てハッとする。部屋の中の親和のねじを巻いていたのは星たちの仕業だった。