近年、後のクラシック候補の有力馬がラジオたんぱ杯に流れることの多かった朝日杯だが、今年は現時点で素晴らしい素質の片鱗を覗かせつつある好素材が揃って、久しぶりに華やかな「朝日杯」らしいメンバー構成になった。人気を集めている3頭は、それぞれに血統的背景からくる個性が出ている上にそれぞれに相応の深みもありそうで、来年以降どれを追いかけることになっても、いつかは幸福な見返りが見込めそうな、そんな馬たち。その中でも更に最高の素材を先物買いする醍醐味を追求するという意味で、個人的には単勝で夢を見たいレースだ。
勝ち時計に表れるスピード、上がり時計に表れる瞬発力といったベクトルで、仮にフサイチリシャールショウナンタキオンに譲るところがあったとしても、この世代をナラティブな意味で率いていくのはジャリスコライトだろうと思っている。いちょうステークスで見せたパフォーマンスは、すでに至るところで10年前のエアグルーヴのそれと比較されているが、両者のそれの素晴らしさは、単に残り100mだけで差しきった破格の脚だけにあるのではなく、2才のこの時点であのような逆境を跳ね返してまでも勝とうとする意志のようなものが感じられたという点にあった。同じ破格の脚と言っても、ショウナンタキオンの新潟2才Sの脚に、馬自身に秘められた精神性を感じたと言う人は少ないだろう。「三つ子の魂百まで」ではないが、舞台の重要性を察しているかのように大一番の攻防でライバルの前に出ようとする意志、こういう替えの利かない資質は、おそらく調教やレースで身についていくようなものではない。こういう資質は、恵まれた大きな器に溜まった力量を素直にぶつけていくだけように見える他の二騎の戦法に比べると、舞台を変えて戦っていくクラシック戦線では大きな武器になっていくだろうし、例えここで敗れたとしても、それを糧にしていけるだけの深みをこの馬に与えていくだろう。名門厩舎の厩務員が「この馬に乗ると風景が変わって見える」と表現した馬の持つオーラ。その意味でこの馬の先達には、シンボリクリスエスゼンノロブロイの姿よりも、バブルガムフェローの姿が懐かしく浮かんできたりもする。
レース前には控える競馬を試すと言っておきながら、ゲートが開くと快調に飛ばしてき直線も突き放すという競馬でフサイチリシャールを勝たせて見せた福永の騎乗は、競馬ファンの興趣をそそるなかなかの好プレーだった。秋の東京での芦毛の快走はそのまま父クロフネの4年前にパフォーマンスにつながるだろうし、東京芝1800mという舞台からはサイレンススズカの逃げを思い出した人もいるだろう。現時点での能力を瞬間最大風速値のような条件で測れば、この馬が一番上にいるのは恐らく間違いない。ただ、ハイペースで流れがちな中山のマイルで、その能力の絶対値をフルに発揮できるかどうか。戦法を模索していた時期のサイレンススズカがスピードを活かす意図で参戦したマイルCSで15着に終わっているという事実は、中距離で逃げてきた馬のマイルへの適応の意外な難易度を物語る。めずらしく逃げ馬不在となった今年のメンバー構成を、鞍上が活かしきれるかどうか。
夏の時点でサンデーサイレンスの初年度に匹敵する評価を集めかけていたアグネスタキオン産駒、その象徴として語られた存在がショウナンタキオンだったが、その後、産駒のスピードへの偏向、意外な成長力のなさが明るみに出てくると、それに伴ってこの馬の評価もジリジリと下がってきた。牝馬ばかりだった新潟2才Sをちぎった実績だけでは、この馬を前の2頭以上に評価する材料として乏しいかもしれない。ただこの馬をまだ見放したくないな、と思わせるのが、今週スポーツニッポンに載った田中勝春の「ジャリスコライトも強いと思うけど、同じ位置から追い出したら負けないと思う」という言葉。G1120連敗中の騎手の発言と言ってしまえばそれまでだが、これだけ負けが込んでいたら注目が集まると弱気になっても良いはずなのに、「こんな素晴らしい馬に出会えたからこそ、ここでしっかり決めたい」とまで言い切る騎手の心根を無視したくはないし、彼がデビュー前にジャリスコライトに乗ったことがあるという事実も、前の発言に一定の重みを加えている。休み明け、内枠、例年に比べて早くなりそうもない展開。これら全てを跳ね除けて勝ちきるようなことがあれば、父アグネスタキオンに匹敵するような評価を、一気に獲得することになるだろう。ただ、藤沢-デザーモが、そもそも勝春に「同じ位置から追い出す」展開を許すのかどうか…。