おもへば今年の五月には、
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫(にやあ)といひ
鳥を見せても猫(にやあ)だった

最後にみせた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云わず眺めてた

ほんにおまへもあの時は
此の世の光のただ中に
立って眺めてゐたつけが……

『また来ん春……』中原中也

ゾウはゾータン、バクはワンワン、トラはガオー、ライオンはオウオウ
屈んで草を食んでいたアカカンガルーは、ずっと黙って見ていたね。
その後お前はすぐに眠ってしまって、バス停にバスが入ってきた時だけ、
バプーと叫んでまた眠りに落ちたのだけど。

お前がこの日を忘れても、父さんと母さんは忘れない。
お前が眠りに落ちた後、二人でお前の顔を眺めてた。
親とはそういうものだということを、お前が教えてくれたから。