阿弥陀堂だより』という映画があってその中に、難病の治療で入院中の小西真奈美を見舞いに来た寺尾聰が、病床に置かれていたプーシキンの文庫本を手にとってその詩の一節を読み上げ、「プーシキンはいいよねぇ」と独り言ちながら白痴面を満開にするというシーンがある。あらすじ上も印象上も実はまったくどうでもいいシーンなのだが、このシーンでふと昔友達が面白いと言っていたことを思い出して、映画を見た翌日図書館から『スペードの女王』と『ベールキン物語』が入った文庫本を借りてきた。映画での紹介のされ方にも表れているように我々にとってはそれほどなじみの深い存在とは言えないけど、現代ロシア語の確立と国民文学の創作を一代で成した、ダンテやシェークスピアにも比肩するほど偉大な詩人なのだそうである(と言われても自分にはまだ、いまいちその凄さが分からない。『浮雲(二葉亭四迷』と『吾輩は猫である(夏目漱石)』を一代でやったようなもの?この二人の生年は3年しか違わない)。19世紀前半の農奴制ロシアという社会状況下で政治的な夢と自然的情感と詩に込めたロマンチスト。代表作『エフゲニー・オネーギン』の主人公は婚約中の友人を決闘で殺してしまうが、プーシキン自身は、妻にちょっかいを出してきたフランス人との決闘で致命傷を負うという正反対の展開で死ぬ。