基本的に身体を動かすことは好きな息子だけど、集団競技は敬遠気味。特に一個のボールを巡ってガシガシ削りあうようなスポーツはからっきしで、幼稚園で放課後に開かれているサッカー教室へ妻が誘ったときも、彼の返事はノーサンキュー。「だってサッカーなら父ちゃんとできるじゃん」。荒川静香北島康介じゃないけど、やっぱり兄弟がいないと自然と個人競技の方向へ心が向かうのだろうか。それとも体操をやっていた妻や、バスケをやってはいてもチームプレーは不得手で格闘技や走ることのほうが好きだった僕の性格を受け継いでいるのだろうか、などと考えていたら、先日、息子の幼稚園が毎年、年長さんのサッカーチームを作っていることを知った。六月の後半、日産スタジアムで行われる大会に参加するためにメンバーを募集しているらしい。このことを一応息子に知らせると、意外にも今度の返事はイエス。メンバーにはかっこいいユニフォームが配られるという話に釣られたのかもしれない。
昨日はその最初の練習日だった。ほとんどが未経験者の幼稚園児がやるサッカーがどんなものか、僕も見てみたかったのだけど仕事で出られず、代わりに妻に動画の撮影を頼んでおいた。ほんの数分の粗いスマホの映像から伝わるその様子はまさに混沌、サッカーというよりもエサに群がるアリの群れと言った有り様で、全員が一か所に固まっているからフィールドのほとんどのスペースががら空きだ。個人がボールをキープする機会はほとんどなく、そのストレスからいたるところで諍いが起こっている。しばらく見ていると、息子の親友で、品行方正、運動神経も抜群なクラスのリーダー的存在の子が、揉み合いの中で別の子の腹に思いっきり前蹴りを入れてダウンさせる、という場面が出てきた。この子大丈夫か!?と思って、巻き戻してよく見ると、倒れたのはうちの息子でちょっとビックリ。でもその割に泣きもせず、すぐ立ち上がってプレーに戻っている。妻によると、おそらくは前の日に見たNBAのフィジカルな映像が残っていて、バスケのマンツーマンディフェンスの要領で相手のエース格を粘着的に妨害していたら、ついに逆鱗に触れたということらしい。映像には残っていなかったけれど、返り討ちにあった後はターゲットを変えて、ゴールキックのときには線から下がる、というルールを守らない別の子を執拗に線の外に引き戻すということを続け、その子が泣きだしちゃうということもあったとか。試合はそこで一時中断、男の先生にその子と一緒に両脇に座らされてお灸を据えられていたそうな。
普段は優しいこの先生も、無秩序で危険も孕んだこの集団を統制するために、結構な怒号を発しているのが映像の音声から分かる。それでも子どもたちはしょげることもなく案外ケロッとしている。遊びの興奮に加えて、長い付き合いでお互いの人となりを知った今なら、関係性を傷つけることなく広げていけるという判断なのだろう。おそらくそういう段階もすべて踏まえた上での教育なのだから、本当に大したものだと思う。
さまざまな洗礼を浴び、足に傷をいっぱい作った息子は、帰路にこう言ったらしい。「オレ、サッカー教室もやるわ」。親といくらボールを蹴り合っていても、こんな体験は絶対にできないということに気づいてしまったのかもしれない。