この三日間、友人は出勤。社会人になってから、仕事の話になると「オレなんて流れに乗ってるだけ」と嘯いてくせにその実、相当頑張っているようだ。iPhoneのアプリで睡眠時間を見せて貰ったら、週の平均で4時間50分。学生時代にお母さんが亡くなったときも、前日に電話で「母親が亡くなった、葬式に出てくれ」、それだけ。彼らしいったら彼らしい。
だからこの三日は奥さんが、買い物やら近所の散策やらに連れて行ってくれた。少し変わった生い立ちの人で、メキシコで生まれ育ち、アメリカの高校へ通い、大学生になって初めて日本の地を踏んだ。スペイン語、英語、日本語のすべてに堪能で、店ではうちらに代わって英語で注文を取り、店員がヒスパニック系の移民と知るやスペイン語に切り替え、うちらにメニューのお奨めを伝えてくれる。どこへ行っても、その土地の由縁をエピソード豊かに紹介してくれて、妻がその歓待ぶりを讃嘆すれば「私は大家族で育ったから」とにべもない。その癖、自分の子どもが褒められたときに、照れて謙遜しまくるさまは、典型的な日本人だ。初めて日本に来て、人々の笑顔なき無言のコミュニケーションにショックを受けているときに出会ったのが、無愛想な僕の友人だった。そのときに言われて殺してやろうと思った一言が「オレ、帰国子女嫌いだから」。以来、幾星霜を経て傍から見ても、独特の睦まじさがある。なのに、そんなことも友人は語ってこなかった。
"May all who enter our home as guests leave as friends."
これはショッピングセンターで見かけた、部屋に飾るパネルの一節だが、初対面の僕らに対する彼女の迎え方は、これを地で行っている。日本人の身体に、新大陸的精神を宿した、不思議な魅力のある人である。