十時までぐうすか眠っていたところ、妻からゴーサインが出たのを機に布団に飛び込んできた息子が、それまで和歌山であったことを教えてくれる。それに相槌を打ちながらノロノロ起きるという幸福な目覚め。十五日までの滞在中、お義母さんが休みをとれたのはこの日と十三日だけとのこと。当初、友ヶ島へフェリーで行く計画なども立てていたのだが、お盆に海へ行くと「呼ばれる」とのお義母さんの意見も出て、思いつきであべのハルカスへ行くことにする。一時間待ちで上った地上300mの展望台は思いの外の眺望。台風一過で澄み切った空気を通して、通天閣やPLタワーの他に、生駒山地丹後山地のすき間にぼんやりと佇む京都の市街も望むことができた。息子と連れ添って四方の眺望を巡りながら、お義母さんがしきりに「前のんより大分ええわやな」と言う。前のん、というのは、四月の里帰りの最終日に、お義母さんに新大阪まで出てきてもらって一緒に上った梅田スカイビル空中庭園のことで、確かに高さこそ及ばないが、あそこから見た大阪湾に流れ込む淀川も捨てたもんじゃなかったのに、と内心思っていたら、その日の夜、妻が解説してくれた。あの日のママは、あの後一人で家に帰らなあかんかったから、寂しくて景色なんてろくに見えてへんかったんやと思う。今日は終わった後も皆で家に帰れるから、めっちゃ嬉しかったんやと思うよ、と。孫たちのペースに合わせながら、普段は気丈に隠している感情の揺れが、不意に滲んだ言葉だったのかもしれない。