新幹線の中で手にとった雑誌の今どきの就活に関する記事が面白くて、つい富士山を見逃してしまった。リクナビという大手の就職サイトでは、50だか100だかの会社に一括エントリーするためのボタンが用意されていて、学生が登録すると、あの手この手でこのボタンを押すようにそそのかされるらしい。エントリーというのはその会社に選抜されるための列に並ぶことだから、このボタンを押すと、自他ともにそれらの会社を志望したのと同じことになる。学生にとっては、就活の第一歩を踏み出したような気になれるし、コストのかからない作業だからつい気軽にこのボタンを押してしまうのだが、対象の企業はいずれも人気企業で競争が激しく、内定をもらうのは容易なことではない。本命ではないと分かっていても、50もの企業から次々に不採用通知が届く心理的ダメージは大きく、本命の就職活動のためのエネルギーまで消耗して、結果自身の適性や希望とはミスマッチな企業に収まることになるという(このことは当然、企業側もミスマッチな学生を採ってしまったことを意味する)。面白かったのは、この非合理的に見えるシステムが、就活にかかわる当事者(学生、企業、リクルート社)の利害の均衡点として成り立っているというところ。就活サイトは、就活のイロハの分からない学生に情報(という名の提灯記事)と安心を提供する一方で、自社への学生エントリー数の前年比で人事部としての業績が評価される企業にとっての駆け込み寺にもなっており、その弱みに乗じたリクルート社はエントリー数を上げることによって企業からの報酬の増大を見込むことができる、という具合。このシステムによって発生するミスマッチは、長い目で見ると学生と企業の双方に不利益をもたらすのであるが、リクルート社にとってはこのミスマッチこそが次の利益の源泉になるのだという。なぜなら彼らは転職サイトにおけるメインプレーヤーでもあるから。
こういう図式で捉えるとリクルート社の陰謀論のようであるが、彼らの中の悪意ある、図抜けて頭の良い人間が一人でこのシステムを設計したとは思えない。複数の利害当事者の均衡点として、マッチポンプ構造が自然に出来上がっていく数理モデルが考えられたら面白いかもしれない。
夕方に着くと、妻のお母さんと妹さんが回転寿司に連れて行って下さった。ネタがホッケーの玉のように滑ってくる今どきの仕組みに子どもたちも大喜び。