午前に休みを取り、幼稚園の餅つき大会に顔を出した。僕が着いたときには、園庭は園児や先生方だけでなく、お手伝いに来たママや下の子どもたちでもう結構な人出。数は少ないが春からの入園が決まっている未就園児と思われる緊張気味の子どもたちの顔もある。そういえば去年は息子も同じ境遇で妻に連れられ参加したんだった。あれからもう一年。年長さんが餅をつき、年中さんが餅をつき、年少さんは先生に杵を支えてもらって餅をつく。未就園児たちが餅をつくコーナーもあり、つき上がった餅はエプロンをかけたお母さんたちが千切ってきな粉や餡をまぶす。僕や、他に来ていたおじいちゃんのように、飛び入りで餅をついている人もいる。下の子どもたちは、お兄ちゃんお姉ちゃんのいるクラスに自然に紛れて抱っこをされたり、ちょっかいを出されたり。こういう幼稚園の大らかで、地域住民の交流をさりげなく支えようとする姿勢に毎度内心で頭を下げている。
自分たちでついた餅を試食する段になってちょっとした事件が起こった。みんながついたお餅を先生が今から配ります、配られたらみんなで「いただきます」をするまで待っていてくださいと言われて各々の手に配られた餅を、息子だけが間髪入れずに口に入れてしまったのだ。それに気付いた他の園児たちから次々と「あー、○君食べちゃったー」と声が上がる。異変を察した息子は慌てて口の中を探るような仕草を見せたが、すでに溶けてあらかた胃の中に収まってしまっているであろう餅を元に戻す術はない。お行儀良く待っていた他の園児からしたら、一人ぺろっと平らげた息子の素行は大事件以外の何物でもなく、冷やかすというより呆気にとられた表情で突き刺さるような視線を息子に向けている。針のむしろとなっていたであろう息子の表情は、親としてとても正視に耐えるものではなかった…。たとえ幼稚園の頃でもあのような暴挙に出た覚えは自分には一度もなかったという妻の言葉を信じるなら、傾聴すべき注意事項が全く耳に入ってこないという悪癖は、完全に僕からの遺伝である。それが、一人だけ餅を食べて白い目で見られたとか、ぼぉーとテレビの前に座って何も頭に入っていないとか、ぼぉーとご飯を食べて何を食べたか覚えていないとかならまだ良いが、こういう悪癖を抱えていると将来、例えばバスケなどの部活に入って、鬼コーチが部員の熱の入らない練習に業を煮やし、お前ら今から絶対にボールを床につくな、ドリブルなしでパスだけでボールを回す練習しろ!と檄を飛ばし、ピーと練習再開の笛をついた直後に、テンテンテンと一人ボールをつく乾いた音を体育館に木霊させて、それを不注意ではなく挑発と受け取った鬼コーチから殴る蹴るの暴行を受け、そのまま刑に服していれば良いものを空気を読まずに体育館からの逃走を図り、それが鬼コーチの火に油を注ぐ形となって捕獲された上に更にタコ殴りにされるという悲劇も招きかねないから、息子よ、よくよく覚悟の上人生を渡るべし。