おばあちゃんは朝七時から一時まで仕事。僕らは八時頃から起きだして、妻は家の拭き掃除。息子はプラレールを手にとって、昨日の電車の遅延や、くろしおが到着するも車内清掃のためしばらく客が乗れなかった「事件」などを忠実に再現している。おばあちゃんの帰りを待って、お昼は彼女がたまに一人で外食を楽しむというラーメン屋へ。
岩出市和歌山市の隣り、紀ノ川を隔てた北東にある。市内(和歌山市のことをこの辺りの人はこう呼ぶ)から車で24号線を北上し、高低差の大きい紀州大橋を上っていくと、視界から町並みが消えて空と川と西側を並走する鉄道の大橋だけになり、いつも別のトポスに入っていくときの軽い小旅行の興奮がある。そして橋の頂点から坂を下り、和泉山脈の裏側のいつも変わらない青黒い山肌が目に入ると、不思議な安堵感に包まれる。紀ノ川の南と北ではそれくらい景観が違っている。北は和泉山脈、東と南は高野山を抱える紀伊山地にコの字型に囲まれたこの場所の地形はかなり平坦で、昔は一面に水田であったことが想像される平野には、今もあちこちの田んぼにイネが櫛で梳かれるように穂をそろえて風になびいている。気温は神奈川より二三度は高い。午後お母さんがお昼寝をしている間に三人で入ったプールは、こんな和歌山平野の真ん中にあった。田んぼの一画を鉄条網で区切り、穴を掘ってコンクリートで固め水を入れただけというただけというような簡素なプールに、信じられないくらい日焼けした近所の子どもたちが群れ遊んでいて、自分も久しぶりにクロールで泳ぐとあっという間にバテてしまったが、息継ぎのときに一瞬だけ入ってくる空の色、プールの縁の曲線、子どもたちやセミの声。
帰ってビールを飲んで初日から実に贅沢な一日。