ウシ・テレクとは≪三本のポプラ≫という意味だ。十キロ、いやもっと先の原野からでも見える三本のポプラの古木のために、この名前がつけられた。三本のポプラは、ぴったり並んで立っている。ポプラらしくまっすぐにすらりと伸びていないで、すこし曲った感じがある。樹齢はもう四百年以上にちがいない。ある高さまで伸びたところで、それ以上まっすぐに伸びることができなくなったらしく、八方に枝を張りひろげて、灌漑用の水路に大きな影を落としている。村にはこういうポプラがまだほかにもあったそうだが、三一年に伐り倒された。その後はもうこういう樹は根づこうとはしなかった。ピオネールの少年たちがいくら植樹をしても、山羊が一年木の若芽を丸坊主にしてしまうのだ。アメリカ楓だけが党地区委員会前の大通りに根づいた。
この地上において人が愛する土地とは、自分の目に見え、耳に聞こえるものの意味すらまだ何一つわからぬまま、泣きわめく赤ん坊としてそこへ這い出てきた土地のことだろうか?それとも、はじめてきみがこう言われた土地のことだろうか ― よし、警護兵なしで行ってよろしい!自分で行くんだ!自分の足で!「寝具を携行して出発!」
ガン病棟』 / A. ソルジェニーツィン