旅が終わるのが惜しくて新幹線に乗るまでの間、名古屋駅で時間を潰すことにした。といっても高島屋の本屋をのぞいただけだが。11階の三省堂に着くと、休日にしても中々の人手。レジの周りには主婦層とその子供たちが列をなしていて何かあるのかなと思って見ていると、店員が、1時から浅野温子のサイン会があるから会場にお越しの上お並びくださいと言っている。東京圏の有名人の来訪もあるとはさすがは大都市名古屋、1時まであと少しだしせっかくだから一目お目にかかっておこうと思ってしばらく待つことにした。そういえば友人宅滞在中に長谷寺に行ったのだが、白く散り残った山桜の美しかったあの寺を知ったのは浅野温子主演のドラマからだった。まったく不思議な縁もあるものだと思っているとそのうちに時間が経ってご本人の登場と相成ったのだが、そこで僕も含めて会場は衝撃に包まれることになる。サイン場に姿を現したのは、痩身の女優浅野温子ならぬ、童話作家あさのあつこだったのだ。目の前にいる痩せてはいるが正真正銘のおばさんと、ブラウン管の中の可憐な姿がしばらく統合できずなぜか泣きそうになった。しかし思い出してみるとプラカードにはしっかりと「あさのあつこ」と書かれていたからのだから悪いのは初めからこっちだった。ある高校で行われた講演会で数学者秋山仁を招くところを、関係者の手違いでプロ野球選手秋山幸二が呼ばれてしまい、高校生が大喜びしたというエピソードを思い出した。ただこの会場でその誤算を喜んでいる人はそれほど多くはなさそうだった。さざ波のように広がった不穏な衝撃はしばらく会場を去らなかった。
結局本屋では、友人宅にあったカオス本と、洋書コーナーでみつけたKurt Vonnegutを買った。
In this world, obituaries are sometimes good news for the general public. A man of promise becomes truely eminent when he wins a notable prize for the excellence of a book he offered. As he gets old, waves of the day can easily wash the eminence off the shore. Now that people have little access even to his existence, he could never get attraction again unless he dies or lapse into some kind of a major crime.