この夏は夜更けまでずっと相談に乗ってもらってばかりだったから、久しぶりに妻と水入らずの時間を作りたくて録画してあったドラマを見た。松本清張の『張込み』。ビートたけし主演、緒方直人と鶴田真由が助演。2002年3月2日の再放送。東京で凶悪な殺人事件が発生して、容疑者が昔の恋人(鶴田)の元に現れると確信するたけしと、それを疑う緒方直人が、桐生の民家で張込みを行うのである。捜査開始の初日からたけしは緒方をぶん殴る。三日目頃、今度は緒方がたけしを殴り倒す。「侮辱しないでくれ」、「警部さん、二人しかいないんだから、そんな夢中になって殴らなくてもいいじゃないの」。序盤、共犯の取り調べでたけしが口にする「結局人間なんて、そいつが信じられるかどうかじゃねぇか」という台詞が、通奏低音として中盤のうねりを生み、終盤はいかにも松本清張らしい(アンチ)クライマックス。自身の監督作であるかにかかわらず、この人が主演した映画、ドラマで面白くなかったのは一作もなかったけど、このドラマも秀作だった。2002年の放送時は多分、VHSのビデオに録って見たのだと思う。僕はあらすじをほとんど忘れていたが、妻は見る前から鶴田真由が足を引きずっていることを覚えていた。関東平野の北限の山並みに抱かれる真夏の桐生には、軒先にも畑にもひまわりが咲き乱れる。僕はこのひまわりが全て燃えてしまえばいいと思っていた。妻は、一人喫茶店に入って煙草に火をつける女の気持ちを心に残していた。
感想を言い合っていたら一通のメールが届いた。ベランダに出ると、こっちでは三週間ぶりの星空。九月中旬の夜半過ぎなのに、ベガはまだ北西の蒼穹に引っかかっている。秋の星座のカシオペアは天頂近くにあって、それを追いかけるようにカペラがオレンジ色の光を見せびらかすように上ってくる。双眼鏡を手に乾いた闇を隈なく探っていると、レンズの中にびっくりするほどの星の賑わい。昴。その東にあるもう少し地味な集まりがヒアデス星団。もう冬の星座が上ってきているんだ。西の街の明かりの上に顔を出していたのはオリオン座の星々。
翌日息子に、昴が見えたよ、と言うと、今日は夜遅くてもいいから起こしてくれ、と言った。これから秋になって空が晴れれば、寝る前の時間にいくらでも見れるようになるさ。今年見れなくても来年、来年見れなくても再来年。うちらが見れなくてもきっとうちらの子どもたちが。夜空を見上げる、見上げないにかかわらず。この夏を楽しんだ人にも、辛く耐えた人にも。