今度はノロウィルスだった。月曜の明け方に異変を感じてから、さてどちらを先に便器につけるべきかというトイレにおけるハムレット的問いが噴出し、気付けば息子も口に含んだ水分を刹那に吹き上げる曲芸を披露。二人合わせて云わば25ラン、25リバウンドというキャリア・ナイトを記録してしまった。頭痛、神経痛も激しく約40時間、おとぎの世界に生まれ変わるんじゃないかと思う深さで眠り続けるが、二日後にああ治ったんだという安堵とともに目覚めて目に入ったのは、鏡に映る伸びた髭とひび割れた唇、栄養失調気味に見開かれた息子の双眸であった。
汚れた寝具を洗い、お粥を口に運び、ウィルスの蔓延する寝床で呻く男どもを愉快に励ましてくれた母ちゃん。少し楽になり上機嫌になってうちらの口からボケが飛び出すようになると回転レシーブをもってそれらを悉く返し、そして二人の回復と共に看病者の使命を終えたその時、同じ病に崩れ落ちた母ちゃんはスゲーかった。
わが子とわが身に言い聞かす、母の温もりに安んずるなかれ、その大きさに向けて長ずべしと。