数日前にニュースの映像を見て以来、息子の興味はタワーからロケットに移っていた。電車、タワーと来て、男性らしくそそり立つタワーの外観をもち新幹線より速いスピードで飛ぶロケットという飛翔体に一気に魅せられてしまったのだろう。夏休み明けの初めての登園を終えて帰宅した息子と一緒に、僕らもパソコンの前に座り、Ustreamからの中継を見守っていた。ところが注目のイプシロンロケットはぴくりとも動かなかった。画面から聴こえてくるのは、付近の森で鳴くセミの声ばかり。
現地で見守っていた人たちはどんな気持ちだったろう。打ち上げ場所の内之浦宇宙空間観測所のある鹿児島県の肝付町は宿泊施設も少なく、遠方からキャンピングカーで乗り付けた人も多かったという。小学生の子どもの思い出作りにと一家総出でやってきた家族もいただろう。炎天下、タオルを首に巻き、地元の人たちが用意した『イプシロン弁当』を頬張りながら待つ発射時刻。カウントダウンを過ぎても、悠然として微動だにしないイプシロン。心なしか騒がしくなるセミの声。何のことはない、遠路はるばる鹿児島の大隅半島まで、鎮座ましますロケットのご神体を拝みにきたにすぎなかったのだ。再打ち上げは最短で3日後との報が入ってくる。いたるところで家族会議が持ち上がる。3日後といえばもう金曜日、月曜日からの新学期を考えるとぎりぎりの日程ではないか。滞在か帰宅か。留まるにしても3日後に打上げが実現する保証はないし、帰るにしても…。セミの鳴き声に送られて向かう帰路はあまりにも遠い。
人の不幸は蜜の味というが、このくらいの不幸が一番賞味するに美味しい味という気がする。これが異常を起こしたソフトウェアの責任者となると、気の毒さがまさって苦くなるし、うちらみたいにパソコンの前でがっかり程度ではもの足りない。夜のNHKニュースはちょうどこの美味しい部分を伝える編集で夏の珍事を伝えていた。