人が、そうするより他に表しようのない気持ちを、行為によって示そうとした出来事のほとんど全てを憶えている人がいる。そうして、地層のように積み重なった記憶の層から、地下水を引くように、かつてあった人々の頑張りや隠された善意を汲みだして、魂に乾きを覚える別の人の心の上に水を撒く。指図や忠告はしない。こうしたらいいんじゃないかと仄めかすことさえしない。そんなことは二十年のあいだ一度もされたことはなかった。