『夜と霧』のヴィクトール・フランクルによれば現代人は、現世的な利得に一喜一憂する「失敗-成功」の水平軸に捉えられているのだそうである。この貧困な価値空間に「絶望-意味」という垂直軸を加えること、つまり苦悩と正面から向き合い、人生の深淵への旅や思わぬ高みへの上昇の可能性を引き寄せる生き方を選ぶことをフランクルは提唱する。そこで『悩む力』の著書もある姜尚中氏が颯爽と登場し、スポットライトを浴びながら悩むことの重要性について語るのであるが、悩むことを推奨する姜氏その人が、自分は垂直軸の中を生きているという自信に漲っているである。余りにもテレビ慣れしたその立居振舞は、「水平」と「垂直」という生き方の二分法を踏まえた上で、「自分はこっち側(垂直)ですが何か?」とドヤ顔をしているようにしか見えないのである。自分の悩みが、果たして充実した意味を内包したものなのか、本当は取るに足らない損得に縛られたつまらないものなのではないか、という不安も含めて世界はできていて、つまり「こっち側」とはこの世界の成立ちそのもので、その中で俯き加減に頼りなく意味を探していく現代人をこそ、フランクルは応援しているのではないかと妻は言うのである。