われふかき淵より汝を呼べり
詩篇

妹に子どもが生まれたとの報を受けとる。新しい命の誕生は、生命についてのフラッシュバック的な想像を伴うもので、それはまた地上に命を迎え入れることの責を圧死するほどの重みで受け止めた個人的な記憶を呼び覚ますものでもある。昼過ぎから僕の精神は著しく混乱した。仕事の合間を見つけては横になって息を吸い込む。渦を巻く情念のやり場がなく、どんな姿勢で寝ていても息が苦しい。息子がいたずらで本当は入ってはいけない部屋のドアを開けてのぞき込むと、僕は眠くて横になっている体で笑顔を向けるが、彼も何かを感じ取った様子で「だいじょうぶだよ、ぜったいにだいじょうぶ!」と声をかけてくれる。妻は昼食時の僕の表情で全てを察したようだ。この問題に即席の出口がないことを彼女は十分に理解しているから直接には何のアクションも起こさない。熱いお茶を入れ、簡単なおやつを作ってくれただけ。それでも僕はつれないなんて全く思わない。彼女はこの問題によって引き起こされる僕の気持ちを能う限りの完全さで理解してくれている。
嫌な頭痛を抱えながら夕方コーヒーを飲みに外へ出て、その足で実家へ行き赤ちゃんの写真を見せてもらう。夜息子を寝かせるときに僕も一緒に寝てしまった。その間妻は僕の仕事部屋の掃除を完璧にしてくれていた。起きて礼を言うと「私があなたと楽しく過ごしたいだけだから」という。妻の目が潤んでいたので、僕もボロボロと涙を流して泣いた。

おとうさん、
わたしを受け入れた日のことを、あなたはもう思い出せないでしょうか?
新しい"いのち"のいぶきを、あなたがフッと予感した日のことを。
そうです、あの日、わたしがあなたを選びました。

おかあさん、
わたしのためのあなたの努力を、わたしは決して忘れません。
わたしのために散歩をし、地上のすばらしさを教えてくれましたね。
すべての努力はわたしのため。あなたを誇りに思います。
『わたしが あなたを 選びました』