我が家に帰ってきて二日目になるのに、息子の寝つきが良くなってこない。その理由が分かったかもしれないと、息子を寝かしつけたあと妻が話してくれた。いつものようにお休みなさいをしてから妻が息子の隣りで寝たふりをしていると、半泣きになりながら頭突きをしたり髪を引っ張ったりして起こそうとしてくるのだが、あれは前夜祭と葬送式の日におばあちゃんの寝姿を見たからではないか、というのだ。そう言えば僕も昼間、和室で目を瞑って横になっているとものすごい力で髪を引っ張られて悲鳴を上げたことがあった。未だに頭皮がジンジンと痛むのだが、彼がここまで強引に僕の休憩を妨げようとするのはこれまでにないことだった。そのことに思い当ってから妻は改めて息子の視線であの二日間を振り返ってみたらしい。バイバイと手を振っても眠ったまま動かない曾おばあちゃん、目が合うと笑ってくれるけどいつもとは明らかに様子の違うばあばとじいじ。時おり黒い服を着た見知らぬ人々があやしに来たり、讃美歌を歌いながらみんな泣いていたり。バイバイをしても応えてくれなかった曾おばあちゃんは花に埋め尽くされた箱のふたを閉じられてどこに行くのだろうか。そして箱を囲んでいる大人たちは皆なんであんなにも嗚咽しているのだろう。僕らは僕らなりに彼が特殊な状況に適応できるようにとできるだけ配慮してきたつもりだった。でもそれは彼の空腹や睡眠や、見知らぬ場所への戸惑いに対するケアを超えるものではなかったのかもしれないと思う。いつもなら発車後すぐに眠りに就くはずの帰り道で、彼は車窓を眺めながら前の席で遺骨を抱える母と同じくらい静かに、チャイルドシートに座って結局一睡もしなかった。僕らが思っている以上に知り、感じ、考えているのであろう赤ん坊の想念について妻と話していた。